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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.19「式典の祈りから学ぶ」

2018年10月17日

南山大学では、学年度のスタートが異なる留学生が多いので、入学式や卒業式を秋にも行います。本学の入学式や卒業式ではいくつかの祈りの言葉が唱えられますが、その中の一つに「平和の祈り」があります。アッシジの聖フランシスコによるとされている「平和の祈り」です。「平和のための祈り」とも呼ばれています。ご存じの方も多いと思いますが、祈りの作者については異なる意見もあるようです。また祈りの言葉も、各国語で、あるいは翻訳者により、いくつものヴァージョンがあります。

式典では、合唱団の演奏に耳を傾けたり、式典パンフレットにしたがって参列者全員で唱えたりするのですが、今回、私は気になることがあって、祈りの言葉の全体を確認してみたくなりました。ネット上で閲覧できるいくつかの説明を確認する中で、カトリック北浦和教会のホームページに掲載されている、堀田雄康「『平和の祈り』―その由来と翻訳―」(※1)という1987年に行われた「フランシスカン研究」公開講座の内容にもとづく文面が、とても参考になりました。

2018年度秋学期入学式の様子

私が気になっていたのは、式典で合唱団による演奏を聴いている際には出てこない表現が、パンフレットの皆で唱える祈りの文面にはあるということでした。問題の箇所は、三部構成と考えられる「平和の祈り」の第三部に当たる文面です。上述の堀田神父さんによる翻訳文から引いてみましょう。

人は自分を捨ててこそ、受け、
自分を忘れてこそ、自分を見いだし、
赦してこそ、赦され、
死んでこそ、永遠の命に復活するからです。(※2

この部分には、「捨てる」、「忘れる」、「赦す」、「死ぬ」といった、状況をストレートに表す言葉が使われており、その実践においては、重い決断を伴うような内容が展開されています。そこで、私なりに推察したのは、厳粛な雰囲気の儀式の中とはいえ、学生たちの入学または卒業を祝い慶ぶ式典における合唱曲の歌詞としては適さないと判断され、アレンジが加えられたのだろうということです。実際、堀田神父さんの講座の文中には、同じ祈りのさまざまな日本語訳が紹介されています。こうして、私が気になっていた点は解消しました。

ところで、今回紹介したアッシジの聖フランシスコの精神を伝える「平和の祈り」の第三部が、以前、私のEPISTOLA第11号(2018年2月)で紹介したことのある『愛は花、君はその種子』(※3)という曲の歌詞の第二部に通じるものがあることに気づきました。この曲はアニメ映画『おもひでぽろぽろ』(※4)の主題歌でもありましたが、両者が通じると思われる箇所を次に引いておきます。

挫けるのを 恐れて
踊らない きみのこころ
醒めるのを 恐れて
チャンス逃す きみの夢
奪われるのが 嫌さに
与えない こころ
死ぬのを 恐れて
生きることが 出来ない

「平和の祈り」の方は、祈る人の心がまっすぐに神へと向けられています。それは、祈りの冒頭の「主よ、私を平和の道具とさせてください」(※2)という言葉からも分かります。それに比べると、『愛は花、君はその種子』では、何がしかの「恐れ」のために、自分の人生のどこかで、その一歩を踏み出せていない状況が歌われているように感じます。その「恐れ」が何であるのか、慎重に吟味してみる必要があります。ただ、ここでは、この曲においても、曲の締めくくりに、「種子は春 おひさまの 愛で 花ひらく」と、一歩踏み出した、恐れの先にある太陽とのつながりが歌われていることを思い出しておきましょう。

※1 堀田雄康「堀田神父『平和の祈り』―その由来と翻訳― TOP」カトリック北浦和教会、2005年8月15日
https://holy-catholic-kitaura.ssl-lolipop.jp/seisin/horita1.html

※2 堀田雄康「堀田神父『平和の祈り』―その由来と翻訳― 三『平和の祈りの翻訳』」カトリック北浦和教会、2005年8月15日
https://holy-catholic-kitaura.ssl-lolipop.jp/seisin/heiwa3-1.html

※3 Amanda McBroom 作詞・作曲、高畑勲 日本語訳詞、星勝 編曲、都はるみ 歌「愛は花、君はその種子(THE ROSEより)」
『スタジオジブリの歌-増補盤-』、徳間ジャパンコミュニケーションズ、2015年(CD)

※4 岡本螢・刀根夕子 原作、高畑勲 脚本・監督『おもひでぽろぽろ』、スタジオジブリ、1991年

南山大学長 鳥巣 義文

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp