学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」
No.68「AIと教育 -パート2」
2025年11月19日
先日、韓国のソウルで開催された世界大学総長協会(IAUP:International Association of University Presidents )の年次総会に出席しました。この会議はソウルサイバー大学が主催し、「AI時代の教育の再考」をテーマとしていました。先月の「エピストラ」でもAIと教育について書きましたが、ソウルでの議論は非常に重要であったため、今月も同じテーマで書き続けることにしました。
今回の会議の主な論点は、AI時代はすでに到来しており、それが雇用市場を変化させていること、そして高等教育機関はこの変化する環境に、遠い将来ではなく、今すぐ対応しなければならないということでした。情報や知識はもはや教室で教えられるものではなく、スマートフォンさえあれば誰でも簡単にアクセスできます。AIを効果的に活用する能力は、就職活動をする人にとって不可欠なスキルとなっていますが、それだけでは十分ではありません。なぜなら、そのようなスキルを持つ人は今後ますます増えるからです。このような状況において、大学の役割は、単に既存の知識や情報を伝えることではなく、知識を生み出すこと、すなわち真理の探究という本来の使命に立ち返ることです。
講演者の中には、この役割を人間とAIの協働、あるいは「共生型知能」を促進すること、つまりAIを人間の目的に融合させることだと説明する人もいました。ある講演者は、これは知識伝達から「思考力の強化」への移行であり、批判的な思考に基づいた適切な質問の仕方を教え、倫理観に基づき、社会的責任感を持ち、人間ならではの特性を理解した「強い個性」を育成することだと述べました。
先月の「エピストラ」でも述べたように、レオ14世教皇は、AIの倫理的な開発と利用を、自身の教皇在任期間における主要な課題の一つとして掲げています。先日開催された「人工知能、倫理、企業統治に関する第二回年次会議」の参加者へのメッセージの中で、教皇は特にAIの人間による利用という問題を取り上げていますので、最後にそのご発言の一部を引用して締めくくりたいと思います。

「残念ながら、教皇フランシスコが指摘したとおり、現代社会はある種の「人間性に関する感覚の喪失、ないし、少なくとも低下」を経験しており、このことは、わたしたちの共通の人間の尊厳の真の本性と独自性をよりいっそう深く考察するようわたしたち皆を促します。AI、特に生成AIは、ヘルスケアや科学的発見における研究の拡大を含めて、多くのさまざまなレベルで新しい地平を開いてきました。同時にそれは、真理と美への人間性の開放や、現実を把握し、扱うわたしたちの特別な能力に対する影響に関する悩ましい問題も生じています。人間の人格の独自の性格を認め、尊重することが、AIの管理のための適切な倫理的枠組みに関する議論にとって不可欠です。」
南山大学長 ロバート・キサラ
発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp)