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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.34「大晦日」

2023年1月18日

以前にも、エピストラで「永遠回帰の神話」について書きましたが、これはミルチャ・エリアーデという宗教学者が提案した宗教学の重要な概念の一つです。エリアーデによれば、「永遠回帰の神話」はほとんどすべての宗教に見られる、人類の共通している考え方です。毎年繰り返して実施する行事などを通して、私たちは歴史を振り返り、生活をリセットして、人類の歴史の最初にあった聖なる時間、完全な世界を再現することができる、という考え方です。毎年の正月はたぶんその最も明確な例だと思います。大晦日に多くの人はその一年間の出来事を振り返り、新年の抱負を固め、新年という新しいスタートを新鮮な気持ちで迎えます。

私が住んでいる神言神学院では、大晦日の夜に共同体の感謝のミサを祝う習慣があります。新年にあわせ生活のリセットをする前に、去る一年間でいただいた様々な恵みを思い出し、感謝することによって、よりよい新しい出発ができる、と私たちは信じているからです。感謝するという行為を通して私たちの生活が神様をはじめ、多くの人々に支えられていることに気づき、引き続きその支えがある、と信頼することによって、勇気をもって来る年を迎えることができるのです。

偶然にも、去年の大晦日にベネディクト十六世名誉教皇が死を迎えました。実は、教皇として引退する半年前の2012年7月、ベネディクト十六世は神言会の第17回総会議を訪問してくださいました。神言会をはじめとした修道会では、総会議中に参加者がバチカンを訪れて教皇にメッセージをいただくことはよくあるのですが、この様に教皇ご自身が総会議に出席するのは、少なくとも最近何百年の歴史では前代未聞のことでした。ベネディクト十六世の訪問の鍵は、2012年の総会議が開かれた場所にありました。ローマから一時間ぐらい離れたネミという町に神言会の生涯養成施設があり、それが総会議の開催地となりました。教皇訪問の背景には、ネミはベネディクト十六世が毎年夏を過ごしたカステル・ガンドルフォに近い、という地理的な要因もありましたが、おそらくそれよりもベネディクト十六世はネミにある神言会の施設に関して特別な思いを抱いていたことにあるでしょう。第二バチカン公会議の公文書の一つ、『教会の宣教活に関する教令』はネミにある神言会の施設で準備され、若いヨーゼフ・ラッツィンガー(ベネディクト十六世)はその起草委員会の中心的メンバーでした。

総会議を訪問したベネディクト十六世を見た時に、私はその虚弱な外観を非常に心配しましたが、彼の演説は明快で、半世紀前に経験したネミでの起草委員会の仕事について愛情を込めて語っていました。半年後、彼の引退についてのニュースを耳にしたとき、私の推測ですが、ベネディクト十六世がネミを訪れた際には、既にその偉大な決断について考えていた のではないか、と思いました。

ベネディクト十六世の死後、彼の人生の遺産に関して様々な意見が表明されましたが、大晦日に私はネミでの出会いを思い出して、彼の永遠の安らぎのために祈りました。

南山大学長 ロバート・キサラ

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp