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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.32「第56回『受難劇』」

2022年11月16日

10月8日、3年ぶりに『受難劇』の公演ができました。2年前に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、本学を代表する伝統行事の一つであるこの受難劇の公演が、やむなく中止となりました。去年、「野外宗教劇」の部員は公演するために頑張りましたが、部員が少ないゆえに、全員が複数役を演じ、事前に撮影したものを配信することにしました。今年、5名が新しく部員となり、ようやくキャンパスのパッヘスクエアでの公演ができました。感染拡大防止のため、距離を取りながら観覧できるよう観客は150名に制限されましたが、グリーンエリアに用意した席は満員となりました。

本学の受難劇は、中世からヨーロッパ各地で上演されてきた受難劇に由来します。最も有名な受難劇は、ドイツのオーバーアマガウで行われるもので、今でも10年ごとに上演されています。オーバーアマガウでの受難劇が初めて上演されたのは1634年です。その頃、ヨーロッパ中にペストが蔓延し、オーバーアマガウの人口の半分近くがこの疫病によって死亡したと言われています。村人たちは、ペストから救われることを願って、ペストの犠牲者が埋葬された墓地に建てられた舞台で受難劇を上演することにしました。この歴史を振り返ると、今年の本学での受難劇の公演は、2年半のパンデミックを経験した私たちにとって特別な意味を持っています。

受難劇は、イエスの生涯の最後の一週間、十字架上の死を経た復活までの出来事を書いたものです。これらの出来事は聖書に含まれる4つの福音書に記述されており、人間的に見れば、陰謀と裏切り、大きな不正に直面した時の非暴力的な対応、後悔と改心、愛と友情など、非常に刺激的な物語です。キリスト教の信仰の観点から見るならば、それは神が苦しみや死を経験してまで、私たちと共にいることを選択された、という物語です。受難劇の公演は、この2年半の私たちの経験においても神が私たちと共にいてくださったこと、そして、パンデミックに直面している悲しみへの対処、失われた生活の回復、次に来るであろうパンデミックや他の厄災への備え、そのすべてに神が私たちと共にいてくださることを思い出させてくれます。

本学の受難劇の最後のシーンでは、復活したイエスがパッヘスクエアに面しているN棟の屋上に現れます。両手を広げたイエスの姿が、ブラジルのリオデジャネイロを見下ろしている有名な救世主キリストの像を連想させ、非常に印象的だと思いました。受難劇の公演の再開にあわせて、パンデミックで失った多くの犠牲者を偲び、ポスト・コロナのより良い世界の構築を祈りつつ、脚本の執筆から公演に至るまで、惜しまぬ努力をしてくださった学生たちに心より感謝します。

南山大学長 ロバート・キサラ

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp