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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.15「モニュメント」

2021年6月16日

神言会総本部の仕事の関係で、これまでに世界のいろいろなところを訪れることができました。ニカラグアのパラカグイナという町を訪れた時に、ある日、少し時間ができたので町を知るために散歩をすることにしました。町の中心に公園があって、そしてその公園に野球のボールとグローブのモニュメントが設置されていることに気がつきました。モニュメントの銘板には、スポーツの分野で町に貢献したBalvino Cruz Martinez氏が顕彰されていました。後にインターネットで調べたところ、Martinez氏は長年、町の少年野球チームの監督を務めたそうです。

ジンバブエでは物議をかもしたモニュメントを見つけました。山の上にあるワールド・ヴューというところから周囲の田園地帯の広大な景色を眺めることができます。そこにイギリスの探検家セシル・ローズが永遠に眠っています。イギリスの植民地政策に協力したローズ氏は生前この場所を訪れた時に、「ここから世界が見られる」と言って、その場所をワールド・ヴューと名付け、いずれそこに墓をつくって葬ってほしいという希望を伝えたようです。しかし、ジンバブエの植民地化と長い独立戦争の苦しい歴史のために、ローズ氏の遺骨はイギリスに移してほしいと思っている人は多いそうです。

先月、アメリカではジョージ・フロイド氏が警察に首を押さえつけられ死亡した事件から一年が経ちました。警察のぞっとする行動によって、全世界で抗議デモが起こり、アメリカ南部では19世紀の南北戦争を記念する多くのモニュメントが破壊または撤去されました。これらのモニュメントに反対した人々は、歴史を消し去ろうとしていると批判されることもありますが、実際にはモニュメントの多くは1960年代の公民権運動への抗議として建てられました。つまり、人種差別を象徴するモニュメントです。

そして、もう一つ、別のモニュメントが思い出されます。ドイツの首都ベルリンの真ん中にホロコーストで犠牲となった大勢の人々を記念する膨大な数のモニュメントがあります。21世紀の初頭に建てられたこのモニュメントを通してドイツは、国家として歴史的な責任を認め、再びその悲惨な犯罪を繰り返さないと誓っています。

歴史の事実はどんな時代にも物議をかもすものです。何年か前にアメリカのスミソニアン博物館の原爆に関する展示で、その悲惨な事実を明確にし、アメリカの責任を問う計画がありましたが、それに対する批判の声が強く計画を放棄することになったことを記憶しています。しかし、歴史を正確に見つめなければいけません。それができるまで、おそらく野球のモニュメントに限定するのが最善ではないでしょうか。

野球のモニュメント(ニカラグア)

ワールド・ヴューからの景色(ジンバブエ)

南山大学長 ロバート・キサラ

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp