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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.4「草の根レベルの平和構築」

2020年7月15日

2013年、私はケニア中部の都市エルドレットを訪れていました。エルドレットはグレート・リフト・バレー(大地溝帯:アフリカ大陸を横断する巨大な谷)の真ん中に位置するのですが、このグレート・リフト・バレーは非常に肥沃な土地に恵まれており、農業には最適な場所です。この土地はそもそもカレンジン族のものだったのですが、イギリスの植民地時代にイギリス人が奪い、そこに移住しました。1963年の独立後、ケニアの初代大統領ジョモ・ケニヤッタのもとで土地改革が実施されましたが、ケニヤッタ大統領の所属するキクユ族に最もいい土地が優先的に分配されたがゆえに、カレンジン族はキクユ族の存在に憤慨するようになりました。5年ごとの大統領選挙の際、一部の政治家がこの不幸な現状を利用して選挙で優位になる手段として部族間の摩擦を煽り、紛争になることがよくあります。2007年から2008年にかけての紛争は特に激しく、1000人以上が命を失い、35万人が国内で避難民となってしまいました。

エルドレットを訪れた時に、地域のカトリック教会の責任者Cornelius Korir司教に会う機会に恵まれ、彼が書いた本、『Amani Mashinani(草の根レベルの平和)』をご恵投いただきました。2007~2008年の紛争後、多くのNGOがエルドレットに入り「平和構築ワークショップ」を通して和解の促進者の養成を図りましたが、明確な効果はあまり見られませんでした。そこでKorir司教は両部族の長老を呼んで話し合いの場を作りました。お互いに非難し合い、苦情をぶつけ合うという非常に辛い内容で会談は始まりましたが、話し合いが進むにつれ徐々に方向性が定まり、最後にはとにかくさらなる被害が拡大しないように紛争を終わりましょう、ということで合意に至りました。今度は両者の他のリーダーたち、とくに若いリーダーたちに輪を広げて、両者の具体的な問題や要求を出し合うことにしました。何が問題かを認識して共有してから、次に問題の解決策が話題となり、やがて両者の子供たちのために紛争で焼かれた校舎の代わりに一緒に学校をつくること、またお互いの作物を市場に運ぶために一緒に道路を建設することに合意して、この合意を実行に移しました。そして、一緒に働くことで相互の信頼感が深まり、「草の根レベルの平和構築」ができました。

最近、アメリカの「原罪」である人種差別が再び注目されるようになりました。継続的な警察の暴力とコロナ禍の不均一な影響がその差別の構造的な様相を明確にしています。抗議デモのおかげで差別のシンボルである像や内戦時代(南北戦争の時代のこと)の南軍の旗を排除する程度の結果はすでに見られますが、根本的な解決はまだ遠い夢のことに過ぎません。そのためにKorir司教が提案した、多くの人の積極的な参加を促す草の根レベルの長期的なプロセスが必要でしょう。私の母国のためにどうかお祈りください。

Cornelius Korir「Amani Mashinani(Peace at the Grassroots): Experiences of Community Peacebuilding in the North Rift Region of Kenya」(Catholic Diocese of Eldoret,2009年)

南山大学長 ロバート・キサラ

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp