
YAMAZATO60
学部長が語る南山大学
Faculty of Policy Studies
「‘リエゾン・パーソン’の視点を育む」
総合政策学部長
久村 恵子
KUMURA Keiko
学生時代の縁が今日まで連なって
久村先生は南山大学経営学部のご出身ですね。学生時代から教員としての現在まで、先生の「南山ヒストリー」についてお聞かせいただけますか?
久村氏
県立高校から南山大学経営学部へ入学し、卒業後はそのまま大学院への進学も考えたのですが、経営学の研究をするためにも「社会にでて企業勤めを経験した方がいい」と考えて、民間企業に就職をしました。そして3年ほど勤めたのちに、南山大学大学院の経営学研究科に戻ってきました。
ということは、先生の専門領域は経営学、なんですね。
久村氏
経営学の中でも「人」に関わる、「人的資源開発」や「組織行動」が専門領域です。
経営学の分野で研究をされていた久村先生が、現在は総合政策学部の学部長でいらっしゃいます。どういった経緯で南山「総政」に着任されたのでしょうか?
久村氏
瀬戸キャンパスに総合政策学部が新設されたのが2000年。当時、私はまだ南山の大学院の経営学研究科博士後期課程に在籍していました。2002年3月に博士号を取得し、その後は他県の大学へ赴任。1年ほど経ったある日、総合政策学部の立ち上げメンバーだった学生時代の恩師から電話をいただいたんです。「総政を手伝ってもらえないか」って。
総合政策学部は、政治、経済、経営など、さまざまな学問領域を探究できる学部です。私は経営学分野の担当教員として、前任者が他大学に移られたタイミングで声をかけていただき、2004年4月に着任しました。
着任から20年、その前の学生時代も加えると...南山とは長いご縁ですね。先生が本日撮影用に持ってきてくださった、学生時代に使われていたという「外書講読」の分厚い教科書は、私も見覚えがあって懐かしいです。「外書講読」と聞いて、学生時代を思い出しました。
久村氏
この教科書は私が初めて手にした洋書の専門書です。当時は英語で書かれた分厚い教科書や辞書を持って、毎日いりなか駅から通学していましたよね。今の学生は大学のロッカーに置いておけるので羨ましいです(笑)。


とっておきの‘マイプレイス’
新卒で民間企業へ就職されて、そのまま続けていくという選択肢もあったのではないでしょうか?
久村氏
今では「配属ガチャ」「上司ガチャ」なんて言葉がありますが、企業勤めにおいてはどういう上司と巡り会えるかによって、人生やキャリアが決まっていく、ということを当時の私も目の当たりにしました。人は「人と人の繋がりの中で育て、育てられる」ものです。その仕組みがあまりにも「ガチャ」、つまり「偶然」いい人に巡り会えれば人は育っていくし、逆に巡り合わせが悪ければ1年以内に辞めていく。実際、1年も経たずに辞めていく同期もいました。人はやはり「誰と出会うか」が大切で、それを偶然に任せていて、人は育てられるのだろうか、という疑問が湧いてきたんです。組織として人を育てていく‘仕組み’を構築する必要があるのではないか、それが研究対象になるのではないか、との思いが強くなり大学院に戻りました。結果として、大学院で学ぶ中でメンタリングという概念に巡り合い、研究テーマとなりました。
社会に出て3年、先を見通す眼力はさすがですね。そんな久村先生のキャンパスでのお気に入りの場所についてお尋ねしていきたいのですが、学生時代から変わらず好きな場所などはありますか?
久村氏
キャンパスは少しずつ変わってきていますが、私が変わらず好きなのは、紅葉シーズンの夕暮れ時に、「図書館前から正門に向かって見たときのメインストリートの風景」です。木が両側からトンネルのように包み込む空間に西陽が差し込み、落ち葉がさーっと舞う情景。地面が黄色い絨毯のようになっているメインストリートを、ガサガサと落ち葉を踏みながら歩くのが好きです。
素敵ですね。情景が目に浮かんできました。
久村氏
教員になってからのお気に入りの場所は、Q棟裏の小道です。ロゴスセンターからE棟、Q棟へと小道が続いているのですが、ランチ時に混み合うメインストリートとは対照的で、ここは静かに過ごせる場所なんです。あとはQ棟5階のエレベーターホールから見る夜景も綺麗ですね。
いいですね、マイプレイス。



それぞれの心に宿る南山マインド
久村先生にとって「Nanzan Mind」とは?
久村氏
良い意味で、真面目さとか優しさとか、そういうものかな。1対1で話すと、自身の考えや軸をしっかりと持っている学生が多いと感じるのですが、優しくていい子だからこそ、周りに気を配るあまりガツガツ主張はしない傾向にありますよね。だからこそ、「もう少し自分を出してもいいんじゃない?」とゼミ生に伝えることもあります。
ただ、私自身が卒業生として語るならば、「キリスト教概論」や「宗教論」での授業や、教育モットーである「人間の尊厳のために」という言葉は、学生時代にはそれほど心に響いてくるものではなかったんです。必修科目だから勉強したけど、それが何を意味するかはわからなかったのが正直なところかな。ところが社会に出てから、人と接したり社会で揉まれていくなかで、人と関係性を築く際の距離感、接し方などに生きていることに気づくんですよね。
私もそう思います。後からじんわり効いてくる感じですね。
久村氏
学生たちも、いずれ社会に出て、今以上にいろいろな人、さまざまな価値観や出来事にぶつかると思います。学生時代は人間関係を選べますけど、社会に出るとそうはいかない。今までに出会ったことのないタイプの人たちとも一緒に仕事をする場面もある。その際に必要な共感する、俯瞰して見てみる、など物事のとらえ方や考え方のベースが学生時代に育まれていたのだと気づくタイミングがあるのではないかと思います。


リエゾン・パーソンの土壌を耕す
学生に普段からどんなメッセージを贈っていますか。
久村氏
ゼミ生によく伝えることは、「課題として与えられたことはまず全部やってみましょう」ということ。例えば卒論を書くにしても、ネット検索で答えが出てきたら「それが全てだ」と思うんですね。ネットには嘘も書かれている可能性はあるわけだから「本当かどうか確認するために別の情報や視点も必要だよ、自分で多角的に調べてみよう」と伝えると、気持ちというか感情が先立って「面倒」という短絡的な反応になりがちなんです。コスパ・タイパ重視もわかりますが、マイナスな感情に囚われて物事を決めていたら先へ進めない。「まずはやるべきことをやってみて、やれるようになってからあれこれ言おうよ」というのが、私の想いです。
おっしゃる通りですね。そう言ってもらえるのは学生のうちだけ、ということには社会に出て気づいたりしますから。
久村氏
総合政策学部は、法律、政治、経済、経営、環境関連では地理的なものから自然科学系までと、幅広い学問領域を網羅しているので、さまざまな科目を勉強できるんです。専門家同士が1つのテーブルに集まって政策を立案するときに、彼らを繋ぐためには、それぞれの視点に立ち総合的に理解できることが重要です。総合的に理解する力を育むには、幅広い知識が必要になります。だからこそ、総合政策学部では、幅広い知識を基盤とし、多角的に物事をとらえ、総合的に理解し繋げることができる人材として、設立以来「リエゾン・パーソン」という表現を使い、リエゾン・パーソンの育成に力を注いでいます。
リエゾン、フランス語で「繋ぐ」「橋渡し」「連携」を意味する言葉ですね。
久村氏
総合政策学部にとって「現代社会の課題解決」が1つのキーフレーズですが、社会の問題には答えがすぐに見つからないことが多い。答えがある勉強は高校まででいいじゃないですか。大学では知識を使って、それをどう自分で組み立てていくかを学んで欲しい。授業でも、まずは学生の皆さんには考えて欲しい課題を提示し、その意識を持ったうえで、専門知識を渡したいと思っているんですよ。それが大学での学びかな、と。
総合政策学部では、専門家たちをコーディネートしたりファシリテートしたり、リエゾンしていく。そういう力を持った人材が育ってくれると嬉しいです。
また本学部は、学生の1割がアジアからの留学生です。彼らは来日して1年半で日本語をマスターして、2年生からは学部生と肩を並べて授業を受け、その後ゼミに入り、卒論を日本語で書きます。学ぶ意欲の高い留学生たちとの交流が、日本の学生にとっても良い刺激になっているようです。


私も経営学部出身なので、久村先生の学生時代の話に親近感が湧きました。「外書講読」などは、実は南山ならではのカリキュラムだったんだな、と改めて知る機会となりました。終始笑顔で優しく語りかけてくれる久村先生の言葉は、すっと心に届く感じで心地よいひとときでした。
Profile
総合政策学部長
久村 恵子 教授
専攻分野
組織心理学、組織行動論
主要著書・論文
- 『メンター/メンタリング入門』 (共著 プレスタイム 1999年)
- 『ジェンダー・マネジメント』 (共著 東洋経済新報社 2001年)
- 『キャリア発達に関する心理学』 (共著 川島書店 2002年)
- 『対人関係と恋愛・友情の心理学』 (共著 朝倉書店 2010年)
将来的研究分野
企業におけるストレス・マネジメントとキャリア開発
担当の授業科目
「組織行動論」、「人的資源管理論」、「産業心理学」、「数量的アプローチ」、「プロジェクト研究Ⅰ~Ⅶ」、「社会の諸相」