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学部長が語る南山大学

Faculty of Law

「法を何のために学び、誰のために使うのか」

法学部長

豊島 明子

TOYOSHIMA Akiko

青春時代からのホームグラウンド

豊島先生の出身大学はお隣の名古屋大学。学生時代からこのエリアにゆかりのある方とお見受けしました。先生の「南山ヒストリー」についてお聞かせいただけますか?

豊島氏

大学院での勉強を終えるまでの学生時代、このエリアに10年住んでいました。今も、当時住んでいたワンルームマンションが建っているんですよ。私にとって今は、とても愛着のある土地で働いている、ということになりますね。

どんなきっかけで南山大学に着任されたのでしょうか。

豊島氏

南山大学には総合政策学部の「行政法」担当教員としてお声がけいただいた縁で、2006年度から5年間、瀬戸キャンパスで働きました。その後2011年に法務研究科に所属が変わることになり、名古屋キャンパスで働くようになりました。じつは一昨年は国内留学で名古屋大学に、昨年は海外留学でドイツのハンブルクで研究する機会をいただきました。2024年3月にドイツから帰国し、4月から法学部長を務めています。

ドイツでは、どんな日々を送られたのですか?

豊島氏

私は、留学先の大学でVisiting scholar roomという、海外からの研究者が共同利用する研究室へ毎日通い、そこで研究をしていました。私に割り当てられた部屋は4人部屋で、朝起きて支度をして研究室へ行き、ランチは同室の海外の研究者らと学食で一緒に食べ、また研究室へ戻って夜まで勉強するという日々は、まるで学生時代に戻ったような気分でした。

社会経験を積んだ上での研究留学、素敵ですね。「自分のために時間を使う」、そのありがたみを実感できそうです。私は先生の研究分野が「行政法」ということで、勝手にドメスティックなイメージを抱いていたのですが、留学のエピソードを伺って、諸外国の行政法との比較もとても大切なテーマだと気がつきました。

豊島氏

そうですね。大学の授業では日本の法律を学生に教えていますけど、「行政法」を学ぶ際には、日本の行政のあり方を考える時に諸外国はどうなのだろうか、という視点も大切だと思います。警察や環境保護の行政など、さまざまな行政の活動分野がある中で、私は社会保障、つまり、国の厚生労働省や地方自治体が担っている生活保護や介護・福祉などの行政分野を専門として研究しています。

インタビュー風景
模擬裁判で使用される「法服」

A棟から季節の移ろいを一望に

留学先での学生生活から一転、法学部長として多忙な日々だと思いますが、「Beautiful Campus」をテーマにお尋ねしたいと思います。南山キャンパスでお気に入りの場所はありますか?

豊島氏

研究室のあるA棟6階から望む、四季折々のキャンパス風景です。毎年、木々の葉が色づきはじめる9月頃から、葉が黄色くなってきたな、赤くなってきたなと、紅葉の移り変わりをとても楽しみにしています。A棟6階の廊下のつきあたりは壁一面がガラス張りになっていて、眼下に自然豊かなキャンパスを望めます。夏には、名古屋港の花火も小さいですが見られますよ。

私は学生時代に、時々名古屋大学の学食までランチを食べに行ったりしたんですけど、先生の学生時代の思い出に、名古屋大学生と南山大学生の交流などはありましたか?

豊島氏

私は学生時代、大学内の劇団に所属して活動していたのですが、その劇団には南山生のメンバーもいて一緒に活動していました。その縁で、当時、劇団の公演チラシを配るために南山大学のグリーンエリアにも行きました。私が20歳の頃です(笑)。

先生の懐かしいお話から、このエリア一帯は先生にとってのホームグラウンドなんだなと、伝わってきました。

豊島氏

一方で、南山大学で働くようになってからは、総合政策学部時代の瀬戸キャンパスにも思い入れがあります。ちょうど先日、総合政策学部長の久村先生と「当時の学生たちに会いたいね」という話をしたところです。瀬戸キャンはこぢんまりしていた分、学生も教職員も結束が固かったように思います。

A棟6階から望む、秋のグリーンエリア
A棟(2004年に新築)
壁一面ガラス張りの廊下

道を照らす道標としての価値基準

豊島先生にとって「Nanzan Mind」とは?

豊島氏

やはり法律を学ぶ時や教える時に大事なことは「人間の尊厳」、つまり、誰もが「個人として尊重される」ということです。ひとり一人が人権の主体であり、等しく全ての人に人権や権利が保障されるためにどうしたらいいか。果たして、現在の社会はそうなっているのかどうか。法学は、これらのことを絶えず「法に照らして考え続ける」学問分野ですから。そういう意味では、法学部の教育・研究の土台にあるものは、「人間の尊厳」だと思います。南山大学で教え、また、研究するという環境に恵まれて、このことをより一層意識するようになりました。

「人間の尊厳のために」という教育モットーを掲げている南山大学では、大学運営のあり方全体を通じての判断基準が「人間の尊厳のために」にあるのだと思います。このことが「Nanzan Mind」ではないかなと、私は思います。

瀬戸キャンパス(2017年3月閉鎖)
瀬戸キャンパスの南山生

法を、何のために使うか

「法の番人」という言葉があるように、法律というのは「正義に照らして良い悪いを判断する」という少し上から目線のイメージがありました。でも、先生とお話をしていると、「人間の尊厳のために」という土台や原理・原則があって、というように、ベクトルが逆のような気がしてきました。

豊島氏

国家が作ったものが法制度であって、それを皆に守らせていく、という上から下への動きもありますが、やはり基本となるのは「人間の尊厳」や、「ひとり一人が尊重される個人であり、人権の主体」であり、下から上へと向かっていくのが法であると思います。「法があることで助かる人がいる」、「法を使って人を助けたい」といった関心で勉強してもらえたら、将来、学生たちが、自分の学んだ知識を生かして辛い立場に置かれている人や困っている人の力になれるのではないかと思います。

法を何のために使うか、ですね。

豊島氏

学生にも普段から「何のために法を学ぶのか」と、問いかけています。法の知識を、全ての人がのびのびと人間らしく生きるために、活用して欲しいと思います。

そういう問いかけに対して、学生の反応はいかがですか?

豊島氏

公務員志望の学生に、「なぜ公務員になりたいの?」と聞くと、安定志向というよりは、「世の中のすべての人の役に立つ仕事がしたい」という答えが結構返ってくるんです。高い志を持っていて頼もしいと感じます。また、法学部で教える側である先生方からも、高い理想を持って研究に打ち込み、常に心に灯している炎みたいなものがあって、それに突き動かされている、そんな情熱も感じます。

東門からA棟へ続く通路
A棟2階にある法廷教室
A棟前の広場

「法を何のために使うか」、心に残ったフレーズです。明るい笑顔から明瞭に紡ぎ出される先生の一言ひとことが沁みました。先生の学生時代のエピソードもお伺いできて、誰もが学生時代を経て大人になっていくんだな、と思いを馳せたひとときになりました。

Profile

法学部長

豊島 明子 教授

専攻分野

行政法

主要著書・論文

  • 「『地域共生社会』に見出される行政法の課題に関する一考察」『地方自治をめぐる規範的秩序の生成と発展』(日本評論社、2024年)p.125-146.
  • 「福祉サービス供給体制の省察―自治と民主性の視点から―」『転形期における行政と法の支配の省察』(法律文化社、2021年)p.262-280.
  • 「福祉サービスの供給体制論・再論―『地域包括ケアシステム』を視野に入れて」名古屋大学法政論集277号(2018年)p.123-144.
  • 「行政立法の裁量統制手法の展開―老齢加算廃止訴訟・福岡事件最高裁判決を念頭に」法律時報85巻2号(2013年)p.29-34.
  • 「福祉における公私関係の考察―情報提供・援助・苦情解決を素材に」『行政法の原理と展開』(法律文化社、2012年)p.314-339.

将来的研究分野

社会保障における国家・行政の役割とその実現手法に関する研究

担当の授業科目

「行政法総論」「行政法各論」「行政救済法」等