Talk Session vol.1
プロジェクト発起人に聞く、
「YAMAZATO60」に込めた想い
NANZAN Vice President
Beautiful Campus,Nanzan Mind
知が行き交う 学び舎の丘
副学長
研究推進・教育支援担当
奥田 太郎
OKUDA Taro
副学長
グローバル化推進担当
山岸 敬和
YAMAGISHI Takakazu
南山大学には、実務を牽引する副学長が4名いる。トークセッションvol.1では本プロジェクトの発起人である研究推進・教育支援担当の奥田太郎氏、グローバル化推進担当の山岸敬和氏に登場いただき、本プロジェクトに込めた想いを語っていただいた。アプローチは違えど、根底に流れているのは‘NANZAN愛’。真摯に向き合う熱い姿を皆さんと共有していく
聞き手
コピーライター 村田真美
(株式会社mana)91B154
南山スピリットが宿る丘、
「YAMAZATO」キャンパス
「副学長」であるお二人に、まずは自己紹介を兼ねてそれぞれの「南山大学と私」をテーマにお話を伺っていきたいと思います。
奥田氏
私が南山大学社会倫理研究所の所員として着任したのは2003年、29歳の時でした。今から20年以上前のことです。その前年に研究会の発表があって初めて南山大学のキャンパスを訪れたのですが、正門をくぐった先のメインストリートと第一研究室棟が整然と広がる風景がとても印象的だったことを鮮明に覚えています。研究所のメンバーとして故マイケル・シーゲル神父と二人三脚で仕事をしていく中で、彼の日々の言葉や姿勢から生きていくうえで大切なことを学びました。
南山大学着任前から、カトリックに触れてきたのでしょうか?
奥田氏
いいえ、全く。私の専門分野は哲学なので学術的には理解がありましたが、はじめは宗教とは一定の距離をとっていた気がします。ですが実際にカトリック神父としてのお仕事に人生を捧げておられる方々と日常を過ごすなかで、そのエッセンスが生きた言葉として、私自身に浸透していきました。
続きまして、山岸先生お願いします。
山岸氏
私の着任は2007年です。政治学を専門として英米学科へ、現在は国際教養学部で教鞭をとっています。アメリカの大学で博士課程を修了してすぐに着任しました。初めてキャンパスを訪れた時の印象は「住宅地の坂を登ってきたら、大学があった」という隠れ里的なイメージ。南山大学にはシンボリックな建物や目立つ建物があるわけではないのですが、メインストリートを歩いていると‘神聖さ’を感じて、私が博士課程を過ごしたアメリカのジョンズ・ホプキンス大学のキャンパスと似た印象を持ちました。「知的な営みを体現したキャンパス」という雰囲気です。
私の着任当時は、故デビット・メイヤー先生が気にかけてくださったり、故マーク・ライト先生とも懇意にさせてもらって、彼らから滲みでる南山への熱い想いや、カトリック精神に基づいた教育に対する熱意を身近に感じてきました。
本プロジェクトのタイトルは『YAMAZATO60』です。山里町は確かに所在地ではありますが、キャンパス移転60周年記念の本プロジェクトになぜ「YAMAZATO」を冠したのか、卒業生の声を代表してどうしても確認しておきたいと思いました。
山岸氏
なぜ疑問に思うのか、逆に聞いてもいいですか?
卒業生にとって馴染みがあるキーワードは、世代によって違うかもしれませんが「いりなか」「なごや」「せと」ではないかと。
奥田氏
なるほど。私たちは、南山大学が「この地に60年間在り続けた」ことを大切にしたいと思いました。都心回帰の流れの中で、こことは別の場所にキャンパス移転をしたり高層ビルにするという選択肢もキャンパス計画としてはあり得たと思うのですが、南山大学はこの地を選び、学生や教職員、卒業生の皆さんが60年の歳月をかけて育んできたこのキャンパスの形を選びました。こういった厚みや時間を表現するときに、やはり地域社会の中にある大学として「YAMAZATO」というキーワードが一番しっくりくると考えました。
山岸氏
南山は、地域に根付き、ローカルな文化をきちんと理解した上で布教活動もやっていこうというマインドが強い神言修道会が母体の大学です。地域社会で育っていくという精神は、このプロジェクトを表現するのにふさわしいと私も思っています。
奥田氏
私が好きだった瀬戸キャンパスには、2003年に着任してから10年ほど授業のためバスで通っていました。瀬戸キャンがあったことも後世に伝えていきたい。そういう意味では、当時の呼称であった「名古屋キャンパス」「瀬戸キャンパス」に限定するのではなく、すべてを包み込んだ‘南山スピリット’の結晶として「YAMAZATO」と表現したかったんです。そんな想いもあります。
そうだったのですね。「YAMAZATO」を冠する=これからも南山大学はここに在り続ける、という宣言にも受け取れました。
美しいキャンパス、
大学が提供する価値とは?
さて、ここからは本企画のキャッチフレーズ、「Beautiful Campus, Nanzan Mind」にちなんで、「奥田先生、山岸先生にとってのBeautiful Campus」を掘り下げていきたいと思います。
山岸氏
前提として「Beautiful Campus」は、「Nanzan Mind」と対になったひとつの世界観ですので、ハードウェアとしての「映え」だけを言及したくない、という想いがあります。
大学における「美」とは、「学生が知的な営みをするうえでの謙虚な姿勢」や「新しい世界に飛び出すための勇気」などソフトウェアにあたるものを‘高みにもっていける’ハードウェアがそこにあって、両者がマッチしている、というのが私たちのイメージです。私としては、その関係性を持って「美しいキャンパス」だと言いたい。
奥田氏
そうですね、例えば「きれいなキャンパス」で検索すると挙がってくるのは、西洋風のゴシック様式などいわゆる写真映えする建物だったりしますよね。でも南山大学の建物はモダニズムの建築様式で、装飾をそぎ落としたコンセプトとなっています。これはどういうことか、と本プロジェクトをきっかけに考え直してわかったことがあります。歳月をかけて過ごした歴代の学生たちのマインドが宿っていくことでキャンパスとしての美しさが完成する、その土台としてはロマネスクとかゴシックとか、すでに西洋の歴史の中で評価されてきた「様式がもっている価値」や形態美に依らないところで「美しさ」が可能となるキャンパスとして設定されている、ということ。だから山岸さんが言うように「Beautiful Campus, Nanzan Mind」という組み合わせがふさわしい、と私も思います。
この場所全体が、そして存在そのものが美しい、ということですね。
奥田氏
人々が往来した時間の折重なりを含めて、存在そのものが美しい、そんなキャンパスだと思っています。そんな中で、どこが一番かと言われると、やっぱり私はグリーンエリアが好きです。
グリーンエリアではお弁当を食べたり? 私はカップルの憩いの場、みたいなイメージがありますけど(笑
奥田氏
私にとっては、どちらかというと「ぼーっとする」ための場所ですね。
山岸氏
私はグリーンエリアで屋外授業をやることがあります。春・秋の野外授業は気持ちいいですし、南山大学のキャンパスの良さを感じながら議論できるのは素晴らしいことだと思います。
奥田氏
私は「ぼーっとする」ためにいろんな場所に行きます。図書館の地下や、人類学博物館も好きですね。ものに囲まれた静寂な場所っていいですよ。学生にとって思索にふける場所には事欠かないと思います。ほかにも、本部棟近くのキリスト像のある小道や、L棟のヒルシュマイヤー第3代学長のレリーフとかパッへスクエアの鉄製レリーフなど、キャンパスには見どころがたくさんありますよね。
山岸氏
私は研究室があるQ棟7階からの眺望や、神言神学院の礼拝堂、静寂に包まれた神聖な空間が好きですね。
私自身は、在学中の4年間ではこのキャンパスを使いこなせなかったな、といま話を聞いていて思いました。
奥田氏
そういう思いを持っておられる卒業生の方々には、ぜひキャンパスを再訪して味わっていただきたいです。
山岸氏
南山大学のキャンパスは空間的にはそれほど広くないかもしれませんが、メインストリートを中心に、ピロティを介して横に建物が配置され、さりげなくゾーニングされています。メインストリートを歩いていると友人とすれ違ったり留学生を見かけたりと、人との交流が活発に生まれるようデザインされています。設計者のアントニン・レーモンド氏は、キャンパスの将来まで見据えたトータルデザインをしたそうです。
奥田氏
パッと見の「映え」はないかもしれないけど、知っていくとより理解が深まる、というのは大学教育と同じだと思っています。今はYouTube等で解りやすい説明動画がたくさん挙がっていて知識を手軽に得られますが、大学で教えるべきことの本質は少し違うのではないかと。即効性はなくてもしばらくしてから効いてくるような、「少しずつ理解が深まるからこそ見えてくる世界」のような「価値」を用意するのが大学教育なんじゃないか、と私は思います。
なるほど、深いお言葉です。
「南山マインド」を
紐解くと見えてくるもの
ではここからは「Nanzan Mind」をテーマに進めていきましょう。「奥田先生、山岸先生が思うNanzan Mind」とは?
奥田氏
教員の視点からの「Nanzan Mind」で言うと、アカデミズムを重視するところ、学術的に探求することをベースにしているところでしょうか。また他の大学に比べて、各教員の研究をしっかりサポートするための制度が予算を削られずにきちんと残っていることも挙げたいと思います。南山学園の教育理念のひとつに「厳しい知的訓練」という言葉がでてくるのですが、厳しい知的訓練を可能にするアカデミズムが教員にも備わっているべきだ、という気風が南山大学にはあると思います。
山岸氏
そうですね、しっかり本を読んでディスカッションするというベーシックなこと=「知的なスクワット」みたいな感じですが、先生方がその必要性を理解して実践している、と言えるでしょう。産学連携などニュース映えする取り組みも慎重に進める一方で、表層的なことではなくアカデミズムを、教員も学生も「厳しい知的訓練を受ける場」として南山大学が存在していることへの理解があると思います。
奥田氏
「厳しさ」は時代とともに変わっていきますが、原点としてそういった部分を持ちながら、社会連携やPBL、国際教育もやっていく、ということですよね。そういう気質が教育に関する「Nanzan Mind」としてあると思います。
また卒業生の方々から「社会に出てから物事の判断をするとき、学生時代に学んだ「人間の尊厳」という言葉が心に残っていて判断軸になっている」という話を聞くことも多いので、地域社会への貢献もそうですけど、世の中にそういうマインドを持った人々が少なからずいるということ自体がやはり重要だと思います。それがいわゆる「Nanzan Mind」が宿っているということなんじゃないかと。南山大学の卒業生は10万人を超えていて、「Nanzan Mind」を持った方々がそれだけ世の中で活躍されている、というのは私たちにとっての希望であり、誇りと言えるのではないでしょうか。
あとは教員と職員、学生の距離が結構近くて、馴れ合いではなくいいチームとしてやっていける距離感だと感じています。外からくる業者の方にも「南山大学に来るとホッとする」と言われることが多いので、そういう温かい雰囲気も「Nanzan Mind」なんじゃないかな、と。
南山大学の幹を太く、
しなやかに育んでいく
ひとつ疑問に思ったことが。「Nanzan Mind」の話をしていても「グローバル」という言葉が出てこなかったのはどうしてでしょうか?
山岸氏
「グローバル化推進担当」ですので私から。南山では外国語学部や国際教養学部などが「グローバル」を想起する学部である一方、法学部のようにドメスティックな視点が強いと考えられる学部でも、国際法という分野もありますし、法の普遍性という概念から見るとグローバルな学問分野であると言えます。また理工学部の学生は自ら英語が苦手だと思っている学生が多い印象がありますが、時空間を超えた学問分野であり、本質的には「グローバル」と表現するべき学問領域だと思います。ですので、ひとくくりに「グローバル」と言うのは適切な表現だろうか、という話になります。ですから、その単語がひとり歩きすると悪い意味に誤解を生むのではないかという懸念から、あまり言わないようにしています。
奥田氏
グローバル、国際性っていうのは、ある意味「コンフォートゾーンから出て、自身がマイノリティになって改めて多様性について考えたり、改めて日本について考える」みたいなことだから。
山岸氏
そうそう、例えば留学はゴールではなくて、留学を通して南山での学びを深めていく、掘り下げていく体験をする通過点です。カトリックである神言修道会という、そもそも地球規模で活動する組織が母体となっている南山大学ですから。「国際性=英語、欧米」ではなく、グローバルな視点を突き詰めていくと、キサラ学長が「地球規模の関心、私たちの貢献」と表現するように、まさに自分たちの足元を見ることで地球規模の貢献が可能になる、ということになる。南山大学はまさにずっとそのような国際性を大切にしてきました。
その発想で60年前からずっとここに在る、ようやく時代が南山に追いついてきた、という感じですね。
奥田氏
はい、同じことをずっと変えずに、曲げずに、という不変性ではなくて、時代に対応しながらも芯はブレずに「Hominis Dignitati(人間の尊厳のために)」を貫く普遍性、そこから開ける国際性をこれからも大事にしたいですね。
本プロジェクトを通してお伝えしたいのが、60年にわたる世代の学生さんが過ごしてきた場所の記憶、それは時代と共に姿・形は変わっても、時代を超えて貫く理念的な柱は変わらない、私たちに共有されてきた大切な価値だということです。幹にあるべきはやはり現役生や同窓生の連なりであり、今の大学を支えている先生方や事務職員の方々ですから、この幹を太くしていくような、次代への良い循環へと繋げていきたいです。
対談の初回はとても楽しく、濃密な時間でした。私も卒業生のひとりとして、学生時代の記憶と今の自分を行ったり来たりしながらの時間旅行気分を愉しみました。このトークセッションを皮切りに、プロジェクトを通して今の南山を多面的に紐解いていきたいと思います!
Profile
副学長(研究推進・教育支援担当)
奥田 太郎 教授
専攻分野
倫理学、応用倫理学
主要著書・論文
- 『倫理学という構え─応用倫理学原論』(ナカニシヤ出版)
- 『失われたドーナツの穴を求めて』(さいはて社)
- 『汚穢のリズム—きたなさ・おぞましさの生活考』(左右社)
将来的研究分野
情念に関する倫理学的研究、秘密と公開に関する倫理学的研究
担当の授業科目
「哲学・倫理学における人間の尊厳」、「生命と倫理問題」、「現代の倫理学」
Profile
副学長(グローバル化推進担当)
山岸 敬和 教授
専攻分野
政治学(日米政治、社会政策、医療政策)
主要著書・論文
- Health Insurance Politics in Japan(Cornell University Press, 2022)
- 『アメリカ医療制度の政治史―20世紀の経験とオバマケア』名古屋大学出版会、2014年
- 『American Politics from American and Japanese Perspectivesー英語と日米比較で学ぶアメリカ政治』 大学教育出版、2013年(共著)
- War and Health Insurance Policy in Japan and the United States(Johns Hopkins University Press, 2011)
将来的研究分野
大学教育政策、名古屋市政研究
担当の授業科目
Special Topics: Global Studies, Special Topics: Sustainability Studies, 政治学、演習
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