yamazato60 ~YAMAZATO Campus 60+

Share:

Facebook X

南山大学の「ここ」を学問する
『南山大学をはかる』

大学の「しあわせ」を測る

総合政策学部 総合政策学科

鶴見 哲也 教授

TSURUMI Tetsuya

南山大学の学生たちは、充実した面持ちでキャンパスを闊歩しているが、果たしてどれくらい幸せなのだろうか?どれくらい有意義な日々を送っているのだろうか? そんな疑問が頭をよぎった時、みなさんなら最初に何をするでしょうか?
大学にいるのなら、まずは先生に助けを求めて研究室のドアを叩いてみればいい。南山大学には何かを測って研究する専門家がたくさんいます。
今回は、アジア諸国や北欧などに出かけて「しあわせ(ウェルビーイング)」を測っている環境経済学者、総合政策学部の鶴見教授に南山大学を測っていただきます。

研究者インタビュー
環境経済学者 鶴見 哲也 氏

聞き手 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所)

鶴見教授は、どうして環境経済学者になったのか、まずは教えてください。

鶴見氏

もともとは理系の学部で環境問題を技術の面から解決していく方法を学んでいました。環境問題を技術の力で解決していくことは極めて重要であり、自分の一生を一つの技術の開発にささげることをイメージして勉学に励んでいました。

そんな中、学部の指導教員を決める際に、現在も共同研究をさせてもらっている環境経済学が専門の馬奈木俊介先生と出会いました。馬奈木先生から「技術を活かすもダメにするも政策次第である」ということ、「政策によってさまざまな技術の普及に貢献できる」ということを教えていただきました。さらに、技術の普及だけでなく、環境に配慮した商品の普及政策、都市の緑地政策など、幅広い分野に対して環境経済学は影響を与えられること、そのことに魅力を感じた私は、馬奈木先生のもとで環境経済学を学んでいく決心をしました。要するに、一つのことに一生を捧げるのではなく、より幅広いことに一生をささげたいと考えて決心したので、そういう意味では「ヨクバリであった」からということかも知れません。

鶴見教授は、環境経済学者でありウェルビーイング研究(幸福学)の専門家ですが、どうして「ウェルビーイング」を研究しようと思われたのでしょうか?

鶴見氏

環境経済学の研究を進める中で、「持続可能な発展の在り方」を考える研究に興味を持ちました。途上国が経済発展をして先進国になっていく過程で、水質汚染、大気汚染、そして温室効果ガスの発生等が問題となります。こうした環境負荷を下げるためには、経済発展をして税収を確保し、その税収を環境対策に充てることが重要となります。しかしながら、実際には、得られた税収は一部の国を除いて環境対策に十分には充てられていないのが現状です。当然のことですが、社会保障や経済対策など、社会課題は環境問題以外にも存在し、税収を環境問題だけに使用することはできないわけです。また、環境問題だけに税収を使っているようでは、他の重要な問題への対応が不十分となり、社会はより良いものになりえません。研究を進める中で「環境問題にどの程度税収を用いるべきか」という議論に強い興味を持ち始めました。

そうした中で、大学院生時代に上述の馬奈木先生より、幸福学という学問があることを教えていただきました。アンケートで把握する主観的ウェルビーイング指標は人々の幸福度を測る指標です。幸福度の決定要因に関する研究は「相対的にどのような要因が幸福度を決定しているか」を教えてくれるものでした。環境問題だけに税収を使うことは許されない中で、相対的に環境問題が他の問題(社会保障や教育など)と比較してどの程度人々にとって重要なのかを把握することが重要と感じたわけです。

環境問題、環境問題とだけ叫んでいれば環境問題の重要性を主張することができるわけではないわけです。他の問題と比較して環境問題がどの程度相対的に重要なのかを説得力ある形で統計の力を使って数値で示す必要があるのではないでしょうか。主観的ウェルビーイング指標は社会の状況を包括的かつ相対的に捉えられる指標と考えています。

要するに、環境を守るためには、相対的な環境の重要性を把握することが重要と考えて、主観的ウェルビーイング研究に力を入れるようになったというわけです。この指標の政策活用は極めて重要であると感じています。

今回は南山大学の学生たちの「幸福度」と「生産性」を測っていただきましたが、この二つを測ることが重要である理由を簡単にご説明いただけますか?

鶴見氏

今回の研究にも書きましたが、現在先進国を中心に若者の幸福度が低迷していることが問題になっています。将来に希望が持てないということがその根本にあるという研究も出ています。それでは南山大学の学生も同じ状況なのか。普段触れ合っている学生がどのような状況なのかを知りたいと思い、今回の企画を考えました。

また、上述の通り、私の専門は環境経済学です。環境の重要性を考える際に、他の幸福度に影響を与える要因と比較してどの程度相対的に環境が重要と言えるのか、そのことを明らかにするためには、包括的に幸福に影響を与える要因の状況を把握したうえで、それらの要因を含めた相対的な観点からの分析(今回は重回帰分析を用いています)を行う必要があります。先行研究から主観的ウェルビーイングの主たる決定要因として将来不安の存在が指摘されてきています。将来不安の中でも特に経済状況の不安は幸福度に強い影響を及ぼすことが指摘されています。アンケートにおいて、環境以外にこうした幸福度の主たる決定要因とされるものを包括的に把握したうえで、日本の若者(特に南山大学生)の幸福度の決定要因を明らかにする分析を今回行っています。加えて、主観的ウェルビーイングの主たる決定要因とされる将来不安、この不安を根本から払拭していくためには日本の労働生産性を高めていく必要があると言われています。経済的不安の払拭は強い幸福度の決定要因です。生産性向上は労働時間短縮にもつながり、余暇の充実にもつながります。日本の幸福度を高めていくためには生産性向上が不可欠と考え、今回、生産性の決定要因に着目しました。

総じて、幸福度の決定要因、そして生産性の決定要因の分析の中で、環境がどの程度重要なのかについて明らかにしたいと考えて今回の研究を企画しました。分析の結果、自然との触れ合い、自然とのつながり、さらにはキャンパス内の自然の存在が幸福度も生産性も高めること、相対的にその影響が他の要素と比較してどの程度大きいのか、について明らかにすることができました。今回の企画を通して、環境は幸福度も生産性も高めるということを南山大学の学生に知ってほしかったのです。

「南山大学をはかる」と一口に言っても、さまざまなアプローチがあって、意外と奥深い。意味合いは異なるにせよ、どの学問も結局は何かを「はかる」営みなのではないかと考えています。そこで、不粋を承知で最後におたずねしたいと思います。鶴見教授にとって「はかる」とは?

鶴見氏

なんとなく、経験上これが大事だと思う、おそらくこれが大事、などと人生経験を積んでいくことで気づいていくことはたくさんあると思います。しかし、それらはたいていの場合、曖昧な感覚で、本当にそうなのかどうかはつかみにくいものであることが多いのではないでしょうか。幸福の決定要因を定量的に数値で明らかにすること、環境の重要性を相対的な意味で定量的に示すことは、「曖昧であるものを明確なものにしていく」作業であると思います。見えないもの、漠然としたものを“見える化”することが「はかる」ということなのではないでしょうか。「はかる」ことで今後我々が何を重視すべきかが見えてくると思います。

「なんとなく」「おそらく」を「はっきり」に変えていくのが「はかる」ということという感じですね。鶴見教授のこれからの「はかる」旅路を楽しみにしております。ありがとうございました。

(1)南山大学のウェルビーイングをはかる

Contents

目次

南山大生は幸福なのだろうか

  • 1. 主観的ウェルビーイング指標とは
  • 2. 主観的ウェルビーイングの主たる決定要因
  • 3. データおよび分析の概要
  • 3.1. 南山大生は幸福なのだろうか
  • 補論. 環境配慮行動の決定要因
  • 参考文献

(2)南山大学の生産性をはかる

Contents

目次

南山大生の生産性は高いのだろうか

  • 1. 仕事の幸福
  • 2. 生産性の決定要因
  • 3. データおよび分析の概要
  • 4. 生産性(成績)の決定要因の推計結果
  • 5. エンゲージメントの決定要因
  • 6. エンゲージメントの決定要因の推計結果
  • 補論:労働環境が個人レベルの生産性に及ぼす影響
  • 参考文献

Profile

総合政策学部 総合政策学科

鶴見 哲也 教授

専攻分野

環境経済学

主要著書・論文

  • "Does Trade Openness Improve Environmental Quality?" Journal of Environmental Economics and Management (共著)
  • "Does Energy Substitution Affect Carbon Dioxide Emissions-Income Relationship?" Journal of The Japanese and International Economies (共著)
  • "Decomposition of the Environmental Kuznets Curve: Scale, Technique, and Composition Effects” Environmental Economics and Policy Studies(共著)

将来的研究分野・経済発展と環境

  • 貿易と環境
  • 望ましい環境政策
  • 生物多様性
  • 森林
  • 主観的幸福度

担当の授業科目

「環境経済学」、「生命と環境(経済と環境問題)」、「経済政策論」他