南山大学って、いったいどれくらいの大きさなのだろう?そんな疑問が頭をよぎった時、みなさんなら最初に何をするでしょうか?
大学にいるのなら、まずは先生に助けを求めて研究室のドアを叩いてみればいい。南山大学人類学博物館が南山大学創立と同時に設立されたことからもわかる通り、人類学と考古学は南山大学のお家芸の一つです。
今回は、国内外のあちこちに出かけて発掘調査をしている考古学者、人文学部の上峯教授に南山大学の面積を測っていただきます。
上峯教授は、どうして考古学者になったのか、まずは教えてください。
上峯氏
考古学をやろうと思った直接のきっかけは、大学に入学して、考古学研究会(学生サークル)の勧誘を受けたことです。それまで歴史の勉強がしたいなと漠然とは思っていましたが、考古学のことは何も知らなかった。そんな新入生に考古学の魅力を語ってくれた先輩方が、とにかくキラキラしていたのです。自分も考古学をやったら、こんな楽しそうな大学生活が送れるだろうか、魅力的な人間になれるだろうか、と思いました。その後も考古学を通じて色んな方々と出会いましたが、そういう人たちに魅せられて、自然と今の道を歩いてきました。
上峯教授、南山大学の面積がどれくらいかを知りたいのですが、最初に何をすればよいですか?
上峯氏
研究と同じく「先行研究を調べる」です。過去に面積を調べた記録がないか、たとえば南山学園や大学が公表しているデータをあたります。ただし本学の場合、建物の増改築や敷地の拡大もありますから、面積の数値だけを調べても、どの部分の面積を指したものなのかはわかりません。そこで地図を調べるのがよいと思いました。世の中にも大学にもさまざまな地図がありますが、どの地図も何らかの方法で測って描かれているものです。もちろん測り方に応じて、地図の正確さは違ってきます。さまざまな地図にあたって、測り方や正確さにも注意しながら、大学の広さを調べてみます。
なるほど、地図に手がかりあり、と。上峯教授に限らず、考古学者はみな、地図について詳しい人なのでしょうか?そうだとしたら、どうしてなのでしょうか?
上峯氏
考古学では地図を使う場面が多いから、地図に慣れているとは思います。遺跡に出かけるときや遺跡の位置を示すときには、公的機関が作成した地図を使います。ただし万能の地図はなくって、自分たちの目的に合わせて地図を作らないといけないことがある。自分たちで手を動かした経験もあるから、地図には親しみももっています。考古学といえば発掘調査のイメージが強いと思いますが、発掘調査でやっている仕事の多くは記録をとること。つまり測量です。掘ったら何かが出てきた、その位置情報を図面にして表現する。自分で測量して図面を描いてみると、公的機関が作成した地図の正確さがよくわかります。その意味で、地図への憧れと信頼も強くもっていると思います。
街中や山の中など、いろいろなところに出かけてらっしゃると思いますが、どんなときに面積を測ってみたくなりますか?
上峯氏
面積を測ってみたくなることはあまりなくて、むしろ測らないといけないな、と思うことがほとんどですね。日本の遺跡は文化財保護法によって守られていますから、発掘調査をする際にも、やった後にも、調査の計画や結果を公的な機関に届け出る義務があります。申請や報告の際には、発掘がおよんだ面積や場所を示す必要があるんです。遺跡を掘ることは、動機の如何にかかわらず、遺跡を壊すことになります。それでも掘らないとわからないことがあるから、せめてきちんと掘って記録できるように、日頃から測量の方法を学んでいるわけですね。
南山大学の面積を知るために、南山大学そのものを測る前に、地図に注目するのは一見、当たり前に思えますが、意外と奥深い。今回執筆していただいた記事では、どちらかというと、南山大学の地図自体を測っている感じですね。
上峯氏
「巨人の肩の上に立つ」で、既存の地図から、信頼性の高い面積の値が算出できました。それでも疑問はのこりましたし、やっぱり細かい部分には手が届かない。今回は図上での仕事に集中しましたから、自分で測って歩いた実感がない。だから、計算間違いしてないかな、と少し不安です。自分で測量してみて、今回の地図計測の結果とくらべてみたいですね。自分で測ったらもっと正確になる、とは言い切れないのですが、既存の地図を使う上でのヒントは得られると思います。
意味合いは異なるにせよ、どの学問も結局は何かを「はかる」営みなのではないかと考えています。そこで、不粋を承知で最後におたずねしたいと思います。上峯教授にとって「はかる」とは?
上峯氏
正しく考えるために対象を切りとることだ、ととらえています。世界は広いから、そのままではわからない。小さな石器や土器でも、細かくみるならやっぱり「広い」。これらの一部を切りとって、サンプルとして手もとにもってきて、考える材料にしたい。そんなときに「はかる」。すると対象の一部が数値に置き換わって、図化するなり計算するなりと、扱いやすく解きほぐしやすくなります。何をはかるのか、何をはからないのかには研究者ごとの着眼点が表れるはず。だから自分の研究では、はかり方にはこだわっています。ひとの研究を見るときにも、どんなはかり方をしているのかを気にしてみています。
「はかる」という営みに、まさにその研究者の研究哲学が見えてくるって感じですね。今回の地図を使った試みに続いて、上峯教授が「自分で測って歩く」試みに期待しております。ありがとうございました。
(2)につづく
大学の面積を測る(1)
Contents
目次
- 1. 南山大学の広さ
- 2.「総合受付地図」と派生形
- 3. 別のキャンパス地図
- 4.「総合受付地図」の由来と正確さ
- 5. 地図から面積を測る
- 6. 測った結果をくらべてみる
Profile
人文学部人類文化学科
上峯 篤史 教授
専攻分野
考古学、文化財科学会、先史学
主要著書・論文
- 『縄文石器 その視角と方法』
- 石器認定の思考—日本列島における約四万年前を遡る石器の認識—
- 斑晶観察法による「前期旧石器」の再検討-島根県出雲市砂原遺跡における事例研究-
- Lithic production strategy of early upper Paleolithic in Shuilian Cave, North China
担当の授業科目
「考古学A」「考古学入門」「考古学調査実習」「考古学分析実習」他