
南山大学管弦楽団
創立70周年記念演奏会
開催報告
Concert
去る2025年2月24日、愛知県芸術劇場コンサートホールにて南山大学管弦楽団創立70周年記念演奏会を開催いたしました。山里の地が学び舎となる10年ほど前に、杁中の地にて誕生した南山大学管弦楽団。70年の学生たちのNanzan Mindが折り重なったDiversity溢れる演奏会について、現部長のライチャーニ准教授が語ります。
※写真は南山大学管弦楽団より提供(リハーサルの様子も含む)
概要
日時 | 2025年2月24日 14:00~ |
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場所 | 愛知県芸術劇場コンサートホール |
曲 | 山本直忠 平和のための祈り 山本直忠 ピアノとオーケストラの為の「祈聖(サンクトゥス)」 ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死 ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 ~アンコール~ エルガー 行進曲「威風堂々」第1番 |
開催報告
南山大学は発足当初から音楽活動に力を入れてきたと、これまで何度も耳にしてきました。比較的に若い世代の私には、そのような記憶や直接の経験はあいにくありませんが、先輩方や同窓生から話を伺ううちに、その中心的な存在が山本直忠(1904–1965)であったことを知りました。氏は音楽部の創設を目指し、当時の少人数ながら現在も別の仕方で活動を続ける管弦楽団と吹奏楽団に加え、南山メイルクワイヤーと南山女声コーラスを立ち上げました。私が顧問を務める管弦楽団は、2025年に創立70周年を迎えます。同時に、山本先生の没後60年という節目の年にもあたります。南山に在籍したのは晩年のわずか15年間でしたが、その短い期間に活発な音楽活動を展開し、何よりもその活動が後継者たちによって継承され続けていることは喜ばしい限りです。これは、山里キャンパスができる以前の話であり、南山のアイデンティティを場所に依存しない形で確立することに大きく貢献したと言えるでしょう。
また、山本先生はもともとカトリック教会と関わりがありましたが、南山に迎えられる直前の1950年、東京で受洗されました。キリスト教にとって欠かせない芸術、とりわけ言葉に基づく芸術である音楽は、本学の本質的な要素であり、今もなおその精神が息づいているはずです。そう言う意味で、山本先生が南山に残した遺産は、教員としてだけでなく、芸術家として、そしてクリスチャンとしても非常に大きなものですが、現在の世代の人々はそれをそれほど意識していません。また、先生が創設した楽団は学生の部活動ではあるものの、大学全体の式典を支え、建学の精神を体現する特別な存在であるといえるでしょう。

山本直忠は芸術に造詣が深く、親戚には名高い詩人や音楽家がいます。その子息である山本直純も、広く知られた音楽家でした。山本直忠の作品は多岐にわたり、『日本幻想曲』(2曲)とその他の管弦楽曲や独唱曲以外、グレゴリオ聖歌による『祈聖(サンクトゥス)』、聖歌『なべての民よ/こゑあげよ』、『聖楽劇「受難」』、『民謡調弥撒曲』などが含まれます(全部で70曲以上)。さらに、南山学園の精神にとって極めて重要な『平和のための祈り』や、大学の式典で演奏される『式典歌』も、山本先生の原作だとされています。式典歌については別の機会に紹介するとして、ここでは『平和のための祈り』に焦点を当てたいと思います。


この曲の作曲時期は定かではありませんが、南山在籍中の晩年に書かれたと考えられています。もともと旋律だけがあり、後に合唱版が作られました。さらに、1965年12月26日には清田健一によるオーケストラ伴奏版が演奏されたことが楽譜に記されています。文語体の歌詞は山根義雄によるもので、伝統的に「アッシジの聖フランシスコの祈り」として知られるものです。山本先生が洗礼時に選んだ霊名が「フランシスコ」であったことも、偶然ではないでしょう。ただし、実際には、この祈りは第一次世界大戦中のヨーロッパで流通していた祈りのカードに由来するという説もあります。
この曲は郷愁を感じさせるイ短調で書かれていますが、決して悲しい曲ではありません。ところどころに荘厳な響きを持ち、特に「赦し」「喜び」「愛すること」の部分では熱く高揚し、最後の「アーメン」ではピカルディ3度が用いられ、明るいイ長調で締めくくられます。歌詞の内容は、「分裂」「誤り」「絶望」といった克服すべきものと、「一致」「真理」「希望」といった実現すべきものを対比する形で構成されています。これは南山やカトリックに限った目標ではなく、善意あるすべての人が力を合わせて目指すべき理想といえます。また、平和の実現が単なる人間の協議によるものではなく、最終的には「上からの賜物」であることも示唆されています。曲は全4節から成りますが、通常は第3節までしか演奏されません。その最後には、「理解され」「赦され」「愛される」ことを求める前に、たとえ命を落としても、自ら「理解し」「赦し」「愛する」ことが大切である、というイエスの教えの核心が強調されます。これはいつの時代にも必要な教えですが、現代において特に求められるものではないでしょうか。
この『平和のための祈り』は、60年以上にわたり、南山学園の卒業式や入学式をさまざまな編成やアレンジで彩ってきました。これまで各団体が持つ楽譜には細かい違いや写し間違いが見られましたが、今回、それらを整理し、完成版と呼ぶにふさわしいスコアを作成できたことは大きな成果です。


2025年の管弦楽団創立70周年と山本直忠先生没後60周年を記念し、振替休日であった2024年2月24日には愛知芸術文化劇場にて記念演奏会が開催されました。指揮者として、山本直忠先生の孫であり、音楽活動を続けている山本祐ノ介氏をお迎えしました。観客は1300人近くにのぼり、150名近い奏者と80名以上の合唱団員が一体となって演奏を繰り広げました。メインプログラムにはA.ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』を据え、R.ワーグナーの序曲やM.ラヴェルの『パヴァーヌ』と並び、山本直忠の作品として『平和のための祈り』がオープニングを飾り、その後『ピアノと管弦楽のための音詩「祈聖(サンクトゥス)」』が披露されました。


この演奏会のコンセプトには、過去の演奏会プログラムの再現、故人を偲ぶこと、そして新たな世界を創造するという願いが込められていました。特筆すべきは、演奏者が世代を超えて集い、現役生と卒業生(OG・OB)が一堂に会したことです。また、器楽と声楽を問わず複数の音楽団体が協力し、交流を深める貴重な機会ともなりました。現在、山本先生が関わった音楽活動は、管弦楽団や吹奏楽団のみならず、2003年に創設された混声合唱団「聖歌隊 南山大学スコラ・カントールム」にも受け継がれています。春休みにもかかわらず、多くの現役学生がオーケストラや聖歌隊の一員として参加し、その熱意と大学への愛着が感じられました。卒業生に昔のことを懐かしむ機会を与えるだけではなく、受験生や保護者に南山の伝統と理念を伝える、意義深い演奏会であったことは間違いありません。当日は学長をはじめ、理事長や同窓会長など、多くの来賓にもご出席いただきました。
[執筆者]
南山大学管弦楽団 部長
人文学部キリスト教学科 准教授 ヤコブ・ライチャーニ

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