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学長からのメッセージ2024年度学長方針

Ⅰ.基本方針

2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたことを受け、本学の運営はほぼ平常に戻り、ポストコロナの時代に入りました。2023年度の学長方針では、ポストコロナの時代では「以前の現状」に戻すのではなく、「新しい現状」を作り出す努力が私たちに要求されていると述べました。世界の現状に目を転じると、長引くロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルとハマスの衝突、地球温暖化、各地の災害等が生じ、「新しい現状」を作り出す努力の必要性をさらに証明していると思います。それに対し、カトリック大学である本学が果たすべき役割を改めて考えてみたいと思います。

新約聖書の「コリントの信徒への手紙 1」には、「体は、一つの部分ではなく、多くの部分からなっています」(Ⅰコリント12:14)と書かれています。それぞれの役割と能力を持っている目、耳、足、手等の部分が結合し、私たちの身体は一つの存在として動いています。身体の機能は普段あまり気にしませんが、地球も私たちの身体と同じように、各部分がお互いの必要性を認め合い、自分の役割を果たしています。また、「一つの部分が苦しめば、すべての部分が共に苦しみ、一つの部分が尊ばれれば、すべての部分が共に喜ぶのです」(Ⅰコリント12:26)と聖書は続けます。私たちもお互いの必要性を認め合い、それぞれの能力・才能を使って補い合い、共に喜ぶ、共に苦しむ存在になっています。

「新しい現状」に向かう本学の使命は、“3Ds”という英単語のイニシャルで表現できると思います。Dignity、DiversityとDialogue、すなわち、人間の尊厳の推進、多様性の重視、対話の場づくりとその実践です。全ての人が平等に持っているかけがえのない尊厳が守られ、国籍・文化・ジェンダー・世代等多様な背景を有する人々が、お互いに持っている意見、信念、価値を出し合い、共に真理の探究と現実的な行動を補い合う場としての大学こそが、ポストコロナの「新しい現状」の構築に重大な役割を果たすと考えています。私たちが本学のアイデンティティとして大切にしてきた国際性を礎に、3Dsの実現へと力を尽くすことこそが、「地球規模の関心、私たちの貢献」を果たすことになると思います。

コロナ禍においては、さまざまな計画の進捗が遅れてきました。昨年度ようやく、教学マネジメントの検討、新入試制度の導入と入試制度全体の再考、国際共修科目についての新たな展開等、大学の改革を進めることができました。本年度は改革をより加速する必要があります。そこで、本年度の学長方針は、従来の形式にとらわれず、なすべきことをより明らかにするために、その形式を変更しました。本学の使命である3Dsを通してさらなる学内改革に励み、ぜひともポストコロナ時代の「新しい現状」を実現させましょう。

Ⅱ.3Dsの実践

近年、大学をめぐる環境は大きく変化し、大学の運営において厳しい状況が続いています。こうした難局を乗り越え「新しい現状」を実現するために、本学は、3Dsを実践し、本年度においては、以下の項目について重点的に取り組みます。

Dignity:南山アイデンティティのさらなる浸透

  1. 3Dsの具現化とも言える「人間の尊厳賞」に関連する取組みをより充実させ、本学の教育モットーである「人間の尊厳のために」の内実を学内外に浸透させる。
  2. 2024年に「山里キャンパス」移転後60年を迎えることを機に、レーモンド建築で構成されたキャンパスの歴史とその美しさについて、学生を中心に広く国内外の人々に伝える催しを企画・実施する。
  3. 全学的な観点から広報戦略を立て実効性ある広報を展開できる体制を整え、学内外への南山アイデンティティの浸透を推進する。

Diversity:環境・多様性に配慮したキャンパスの整備

  1. 募集・採用、会議体や意思決定過程等の参画においてジェンダーバランスに配慮する。
  2. 改正障害者差別解消法の施行により義務となった合理的配慮をさらに充実させ、多様な背景をもつ人たちが対話を通じて相互理解を深めつつ共生できる環境の実現を目指す。
  3. DXを推進し、業務改善のあり方について、AIの活用の検討を含め、各部署にて対話を進め、より働きやすい環境の実現を目指す。
  4. 省エネ・節電に努める等環境に配慮した行動をするともに、建物・施設のさらなるバリアフリー化を図るような改修の可能性について検討する。

Dialogue:対話を通じた大学運営

  1. 学部・研究科等の各部局が立てた問いに答えうるデータをIR推進室が提供し、対話を通じた教学実践の点検・評価・改善が継続的に実施される組織風土をつくる。
  2. 学修者本位の教育を行う社会に開かれた大学であり続けるために、令和4年度大学設置基準等の改正に係る基幹教員制度導入への準備を始め、基幹教員の割り当て、主要授業科目の位置づけ等を具体的に策定する。
  3. 本学アイデンティティの中核を成す「国際性」を体現する外国語学部のあり方について、学修者本位の教育の実現を念頭に、全学的な対話を通じて引き続き検討する。
  4. 理工学研究科博士前期課程・後期課程の2025年4月開設に向けて、3Dsを念頭に、全学的な対話を通じて引き続き準備を進める。
  5. 大学内に卒業生がいつでも立ち寄り対話や交流ができるアルムナイ・ラウンジ開設の構想を推進する。
  6. 現役の学生と卒業生が、さまざまな形で出会い、研究・教育の両面で協働する場を、同窓会との連携等を通じて企画・実施する。

3Dsの実現のために:創立100周年へ向けての準備と持続可能な大学運営

  1. 持続可能な大学運営を行えるよう、南山学園中期計画(第2期:2025年度〜2029年度)個別計画を策定する。
  2. 2032年の学園創立100周年事業に取り組むとともに、2046年の大学創立100周年に向けて、新たなビジョン策定の準備をする。それに伴い、年史編纂体制の整備を進める。
  3. 寄付金、補助金の獲得等、財政的な観点をもって、教育・研究および課外活動の充実にむけた議論を始める。
  4. 経常費補助金「教育の質に係る客観的指標」に関する実質的な対応を検討・実施する。

Ⅲ. グローバル化推進

本学は建学以来「国際性」をアイデンディティとし、さまざまな先進的な取組みを行ってきました。その一方で現代においては、国や地域を超えて協力・協調しながら解決すべき問題が国内外に未だ多々存在しています。そして問題解決のためには地域レベルの視点と地球規模の視点を併せ持つ必要があります。そこでこれまでの学長方針では「国際化推進」として扱われてきた項目を「グローバル化推進」としました。本学のアイデンティティである国際性をさらに進化させるために、これまでの取組みを見直すと同時に、その戦略についての対話を全学で広めていく必要があります。本年度は、3Dsの実現を目指しながら、以下の課題について部局を超えて取り組んで下さい。

1.学内におけるグローバル化戦略に関する対話の促進

グローバル化戦略について全学的な対話を促進するために、会議体を設立して組織的環境を整備し、具体的な戦略を実施に移す方法を検討する。

2.派遣留学の充実

(1)協定校の多様化

協定校が少ない国・地域の開拓をさらに進めるとともに、留学目的の多様化を含めた、協定の締結を図る。

(2)長期・短期留学の促進

長期留学、国際センターや学部・学科主催の短期留学プログラムへの参加を促すため教育的な方策を、学内の国際交流施設を活用することを含め検討・実施する。また、短期留学プログラムに対する経済的な支援にむけた議論を全学的なレベルで始める。

3.留学生受入れの拡充

(1)国際センターによる受入れプログラムの進化

外国人留学生別科創設50周年を機に別科同窓生の組織化を行う。また、別科留学生と本学の学生との共修をさらに充実させることを含め、外国人留学生受入れプログラムの進化について検討を行う。またアニメスタディツアー等の新たな外国人留学生短期受入れプログラムを継続・発展させる。

(2)学部・研究科における留学生受入れ増加

国際センターと学部・研究科は、留学生受入れ増加のための具体的方策を検討する。

4.国際交流の充実

多文化交流ラウンジ(Stella)、World Plaza、ジャパンプラザ、ヤンセン国際寮における国際交流や運営のあり方について見直しを行う。

Ⅳ. 教育

これまで積み重ねてきた本学の教育の質をさらに高いものとするため、2023年度は、教育の質保証に関わる課題とその方策について、大学執行部主導で検討を重ねてきました。

現在の大学教育は、「何を教えたか」から「何を学び、身に付けることができたのか」への転換、つまり、学修者本位の視点が求められています。私たちはこの潮流について全学的に認識・共有し、整備・改善し続ける「自己改革」の仕組みを作っていかねばなりません。

求められるカリキュラム内容も、新たな技術革新・文理融合・地域貢献・国際共修に関する学び等と多様です。また、大学の学びは、本学の学生だけではなく、高大接続を意識した高校生や、社会人等、社会に開かれたものとする必要があります。本年度は、すべての教職員および学生が協働し、対話を通じて新たな学修の場を醸成するとともに、さまざまな人が集う活気のあるキャンパスの実現に向けて、以下の課題に取り組んでください。

1.教育の充実

(1)多様な教育手法の推進と内容の充実

  1. 学修者本位の教育を実現するための多様な教育手法を各授業科目において推進する。
  2. 学修者が自らの学修状況と学修成果を振り返るための学修成果可視化システムの導入を進めるとともに、LMS(Learning Management System)等各種オンラインツールの有効活用について継続的に検討する。
  3. 大学での学びを地域に還元するサービスラーニングの授業科目への導入を検討する。
  4. 数理・データサイエンス・AI教育プログラム等、時代の流れに即した新しい授業科目の導入について検討する。
  5. 2023年度遠隔授業の方針を踏まえて、その課題を整理し、より明瞭な方針を策定するとともに、より質の高い遠隔授業の実現を推進する。

(2)国際共修科目の充実

2018年度に採択された世界展開力強化事業において事後評価で最高評価Sを獲得したNU-COILプログラムと、外国人留学生別科生との対面式の国際共修科目である「オープン科目」をさらに充実させる。そのために、各学部はこの取組みを着実に進める。

(3)Nanzan International Certificateに代わるプログラムの開発

Nanzan International Certificateに代わる新たなプログラムの具体的な計画を開始する。

(4)大学院におけるリカレント教育の検討

就業者がキャリアアップのために新しい知識やスキルを身につけるためのリカレント教育について、大学院の各研究科において、その実現可能性について検討する。

2.教学マネジメント体制の整備

入学前から卒業後までを視野に入れた教育の質保証を行うために、3つのポリシーを踏まえた教学活動の点検・評価・改善を継続的に実施する体制を整える。そして、大学、各学部・研究科において、教育の質保証を担保するための具体的な取組みを推進する。

3.高大連携教育の推進

高校生が本学の教育活動に参加することができる取組みを推進するとともに、入学予定者に対する教育の充実を検討する。

Ⅴ.学生支援

本学をより魅力ある大学にするには、学生が生き生きと学び、自己研鑽し、そして社会へと巣立っていく大学を実現することが不可欠です。その中で、課外活動の充実は、学びの一環およびキャリア支援としても重要です。躍動する学生の姿は、その大学の顔になるとともに、さまざまな観点から、大学にとってよい影響を与えます。2023年度には、以前のような平常時の課外活動の多くが復活し、キャンパスに活気が戻ってきました。課外活動は多様化し、スポーツ振興もより一層重要度が増す昨今、各部局は、これらの認識を共有して、以下の課題に取り組んでください。

1.学生が躍動できるような課外活動へ

(1)学生による取組みの支援

南山チャレンジプロジェクトや学生交流センター(セントルム)、多文化交流ラウンジ(Stella)等の活動を通じ、学生による独創的な取組みを引き続き支援する。特に、防災・減災等、学生によるさまざまなボランティア活動や地域貢献活動、ピア・サポートを奨励する取組みを検討する。

(2)課外活動の活性化

  1. キャンパス内のスポーツおよびや文化的な活動、社会活動を推進し、学びの一環としての課外活動の活性化を検討する。特に、学生がキャンパスでスポーツを通じて成長することのできる環境整備を検討する。
  2. 本学の伝統として存在する上智大学・南山大学総合対抗運動競技大会を、さらなる魅力あるコンテンツとして発信し、その取組みを発展させる。

(3)他校との交流

他大学や中学・高等学校との課外活動における交流を促進する。特に、カトリック系高等学校との高大連携を充実させるために、カトリック系高等学校向けのスポーツ大会の実施を検討する。

2.キャリア支援・キャリア教育の充実

(1)キャリア教育の実施

  1. オンライン面接ブースの導入を踏まえて、留学生も含めた就職活動のサポートのさらなる充実を検討する。
  2. 学生に対するキャリアイベント等の情報提供をさらに充実させる。
  3. 大学および各学部において1年次からのキャリア教育を充実させ、将来に向けたキャリア形成を支援する。
  4. キャリア関連科目において2週間以上の就業実践研修の導入を検討する。

(2)起業支援の取組みの発展

アントレプレナーシップ教育を拡充させ、地域のスタートアップ施設等と連携をして、学生の起業を支援するための取り組みを検討する。

(3)エクステンション・カレッジの活用

資格取得、公務員試験等、学生のキャリアに寄与するエクステンション・カレッジの知的リソースのさらに有効的な活用を目指し、現行体制の見直しを検討する。

Ⅵ.研究推進と地域・社会連携

全国的に見ても科研費採択率の高い本学は、多くの優秀な研究者が活躍する研究機関でもあります。2023年度はライネルス中央図書館を活用した学術イベントが多数企画され、学部生、大学院生そして教職員が集い議論する機会が多く設けられました。人類学博物館、研究所・研究センター主催の多彩な学術イベントも活発に開催され、研究成果の社会的還元を果たしてきました。こうした活動をさらに多くの人々に開くため、本年度は、それぞれの部局において、以下の課題に取り組んでください。

1.知的交流の場の創出

セミナー室やラーニングコモンズの利用状況を把握し、知的交流の場の創出に向けた大学内空間資源の有効活用について検討する。また、ライネルス中央図書館でのイベント企画を通年で計画的に進める体制を整え、学部生、大学院生、教職員間の対話を進め、知的交流を活性化させる。

2.教育支援・研究環境の整備

(1)国内外の大学・研究機関との連携

個々の教員による研究活動を支援するとともに、海外協定校の教員との教育・研究両面にわたる交流を促進する。

(2)環境問題に関わる教育支援・研究の推進

環境理念を共有するジブリパーク・オフィシャルパートナーとの連携を進め、環境問題に関して、学生によるプロジェクト、本学研究者による社会実装につながる教育・研究、その成果の多様な方法による発信を推進すべく、全学的な支援を行う。

3.地域社会・産業界との知的交流・連携の促進

(1)連携体制の整備

  1. 人類学博物館、ライネルス中央図書館、研究所、研究センターが連携して知的交流を推進し、その成果を社会に対して多様な方法で発信する体制を整備する。
  2. 本学と多様な主体による共創を視野に入れた、全学的な社会連携推進体制のあり方について検討する。

(2)研究シーズの把握

企業等との関係構築を進めるために、人文・社会科学、自然科学の各領域での学内の研究シーズの全学的把握体制を検討する。

Ⅶ.入試・高大連携・広報

これまで私たちは、本学を志望する受験生に、私たちの魅力を伝え続けていくために努力し、本学に入学する学生が成長していく大学を実現すべく行動してきました。2023年度は、多様な学生を受け入れることを目的として、新たな総合型入試の導入、特色ある「学校推薦型選抜(長期留学経験者対象)」の実施、高大連携の実現等を、検討・推進してきました。本年度は、これらの取組みと広報を戦略的に充実させ、新たな取組みについても検討、実施していきます。各部局は、以下の課題について、取り組んでください。

1.年内入試の拡充

(1)総合型入試の全学的導入

多様な学生の受入れを促進するため、2025年度および2026年度入試において、総合型入試を各学部で導入するための準備を進める。既に総合型入試を実施している学部・学科においては、その内容の充実を図る。

(2)「学校推薦型選抜(長期留学経験者対象)」の拡充

初年度に期待通りの志願者を集めた「学校推薦型選抜(長期留学経験者対象)」を拡充し、本学の国際性を特色とする教育をさらに推進する。

(3)「推薦入学審査(特別協定校)」の拡充

現在4つのカトリック系高等学校との間で実施されている「推薦入学審査(特別協定校)」に、新たに複数のカトリック系高等学校を加え、カトリックの教育理念を共有する高等学校との高大連携を強化する。

2.一般選抜入試の継続的検討

年内入試のあり方と同様に、学部での学修との関連性を意識した一般選抜のあり方を継続的に検討する。

3.中高大連携の拡充

学園内の中高大連携を充実させ、高校生が大学教育を体験する機会を創出し、学生との交流を促進する。また、本学との連携に意欲のあるカトリック系高等学校との協定締結を積極的に進め、生徒・学生・教職員との交流を促進する。

4.戦略的な広報展開

大学全体の広報活動を戦略的に展開するため、学内のリソースを有機的に活用できるよう、部署間の連携を強化する。また、学校推薦型選抜(長期留学経験者対象)や新たに実施する総合型入試等、各種入試制度の広報を、戦略的に強化し、実施する。

Ⅷ.おわりに

これまでの学長方針では「地球規模の関心、私たちの貢献」という表現で、本学の果たす役割を確認してきました。本年度はポストコロナにおける「新しい現状」を作り出す本学の存在意義を3Dsの観点から説明しました。本学は2046年には100周年を迎えます。「人間の尊厳のために」という教育モットーを永久に守りながら、地球規模の要請と社会からの期待に応えることのできる大学づくりをみなさんとともに進めていきたいと思います。