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学長からのメッセージメイルマガジン「EPISTOLA」

No.14「大切な『個の力』に気づくこと」

2018年5月16日

5月に入り、キャンパス内には大学らしい勉学と研究のリズムが穏やかに流れています。

ところで、皆さんは本学が2007年に「南山大学グランドデザイン」という将来ビジョンを策定したことをご存じでしょうか。これまでEPISTOLAを読んでくださっている方は、ご存じでしょう。新しい読者の皆さんのために、簡単に紹介します。

「Hominis Dignitati(人間の尊厳のために)」を教育モットーとする本学は、その具体化のためのビジョンとして「人種、障がい、宗教、文化、性別など、様々な違いを認識し、多様性を前提とした人間の尊厳、他者の尊厳を大切にし、人々が共生・協働することで、新たな価値の創造に貢献する」ことを掲げました。そして、これを端的に表現するキーフレーズとして「個の力を、世界の力に。」を定めています。

南山における教育・研究は、このビジョンに示されたようにつねに人間の尊厳を念頭に置いて探求され、本学から地域社会へ、さらに世界へ向けて、その成果を人々とともに分かち合うことを目指しています。そのために本学が重要視するのは、本学で学び探究する一人ひとりの自覚です。――「個の力を、世界の力に。」果たして、この「私」に「力」があるのだろうか、と不安になる必要はありません。ここにいる「私」が自分の特長に目覚め、それを練磨し、「私」のまわりの「他者」と分かち合うことが、「世界の力」へと限りなく成長していくプロセスの始まりになります。不安は自分が持つ未知の可能性についての裏返しの感情とも言えます。

ところで、今月に入ってから、作家東野圭吾さんの『ラプラスの魔女』という小説が実写映画化されたと聞きました。私は映画を観ていませんが、原作を読んで大いに共感したフレーズがあります。それは、小説の主要登場人物となっている父と子の会話の中にあり、息子が自分と対立する父親に向けた言葉です。物語の展開のネタばらしにはならないと思いますから、少しだけ引いてみます。

「世界は一部の天才や、あなたのような狂った人間たちだけに動かされているわけじゃない。一見何の変哲もなく、価値もなさそうな人々こそが重要な構成要素だ。人間は原子だ。一つ一つは凡庸で、無自覚に生きているだけだとしても、集合体となった時、劇的な物理法則を実現していく。この世に存在意義のない個体などない。ただの一つとして」(

興味深い個所です。この世に価値のない個人などなく、人々が同じ共同体の一員として、それぞれに与えられた力を全体のために発揮することで、社会また世界が有意義に構成されるのだと語られているように、私には思われます。ここでは、確かに、一人ひとりの「個」の重要性が語られています。では、加えて、その一人ひとりが、自分を問い、共同体の中で自覚的に生きるのであれば、その成果はどれほどでしょうか…。

5月の澄んだ空を眺めながら、希望してみることにします。――私たち一人ひとりが、「人間の尊厳のために」を自覚し、勉学また研究に取り組むことにより、キャンパス内で具体化される共生・協働のプロセスが、「世界の力」へと展開していきますように。

東野圭吾『ラプラスの魔女』(角川書店、2015年)436頁

南山大学長 鳥巣 義文

発行人:南山大学長
発行 :南山大学学長室 (nanzan-mm-admin@ic.nanzan-u.ac.jp