人類学博物館
担当者インタビュー
R棟地下1階にある南山大学人類学博物館。皆さんは足を運んだこと、ありますか?
南山大学創立とともに第一歩を踏み出した伝統ある博物館。実は、全国的にみても先進的な展示方法を取り入れています。そんな博物館の企画運営に、情熱と愛情を注ぐ担当者3名のお話を聞いてきました。
取材日:2025年12月17日

(左から)
人類学博物館学芸員 井原 瑠梨さん
人類学博物館学芸員 鈴木 康二さん
人類学博物館学芸員 中島 萌さん
まずは自己紹介をお願いします
では、鈴木先生から。
鈴木
南山に来る前は、保育士をしており、さらにその前は30年ほど文化財の仕事をしていました。
元々は、大学で考古学の勉強をし、滋賀県で埋蔵文化財行政職として発掘等に携わっていたのですが、徐々に、教育や子どもたちに関わりたい、という思いが強くなり、保育園で勤めるようになりました。
そんな矢先に、「南山の博物館で働きませんか?」とお声がけをいただいたんです。実は、他の博物館だったら断ったんですよ(笑)。でも南山の博物館だったら、今までの仕事でずっとやりたかったこと――子どもたちに土器をさわってもらう、などを実現できるので、「南山の博物館なら働きたい!」という思いで、2025年の4月に着任しました。

子どもたちに土器をさわってもらう、ということですが、全国的にも「さわれる博物館」は珍しいのでしょうか?
鈴木
大阪の国立民族学博物館の設立当初のコンセプトでは「さわれる」博物館でしたが、今はあまり積極的に「さわれる」ことをPRしていないようです。ほかにはほとんど聞いたことはないので、全ての資料に「さわれる」博物館というのは、全国的にも南山だけかもしれませんね。
知らなかったです。実はすごい博物館なんですね。
続いて、井原さんの自己紹介をお願いします。
井原
私と中島さんは学芸員資格をもつ事務職員として、先生方の補助業務にあたっています。WebページやInstagramの更新など、広報も担当しています。今年で8年目になりました。
私は小さいころから漠然と博物館が好きだったんです。ずっと博物館に関わる仕事をしたいと思っていて、進路を決める時に学芸員の資格が必要だと知り、南山大学人文学部に入学しました。卒業のタイミングで、ここの博物館の学芸員の枠が空くと教えてもらい、4年間学んできた大学の博物館に就職できるなんて良い機会はまたとないと思い、採用試験を受けました。

小さい頃からの夢を実現しているのですね。
井原
ちょっと変な子どもだったので、小学校の社会の授業で古墳を勉強してから、行ける範囲の古墳に父と自転車で巡っていました。古墳の近くにある資料館でお話を聞かせてもらい、「博物館の人」ってすごい仕事だと思っていました。岡崎城で行われていた発掘現場を見学し、発掘ってすごい!と子どもながらに感じていました。その時から、考古学や歴史に興味がありました。
続いて、中島さんはどういった経緯で博物館で働くことになったのでしょうか。
中島
母の影響で、私も小さい頃からよく美術館や博物館に連れて行ってもらっていました。大きくなるにつれ、博物館で働くには資格がいることを知り、大学に入ったら学芸員資格を取ろうと思っていました。ただ、学芸員になるのは難しい、と思い込んでいたところがあり、学芸員資格は自分の勉強のために取ったと捉え、全く別の分野で就職をしました。しかし、もう少し学生時代に学んだことを活かしたい、また、学生に関わる仕事がしたいと考えていたこともあり、ここの募集を見て、応募しました。今は、大学生だけでなく、小学生から高校生まで、様々な学生たちと関わることができています。

皆さん「博物館が好き」(鈴木先生の場合は「子どもも好き」)という思いから、今のお仕事につながっていることが分かりました。
そんな皆さんが思う、南山大学の人類学博物館のすごさは何でしょう?
中島
「ユニバーサルミュージアムを目指している」点です。まだなりきっている訳ではなく、目指している。そこが私は一番好きです。
例えば、Webページに掲載している博物館までのアクセスルート。(https://rci.nanzan-u.ac.jp/museum/information/access.html)何メートル進んで左に曲がる、と表現されていますが、これは、視覚障がい者の方が、耳で情報を聞いて、八事日赤駅から歩いて来れるように、との思いから掲載しています。このような細かな配慮の積み重ねが、ユニバーサルミュージアムを目指すためには、大切だと考えています。
「ユニバーサルミュージアム」とは、どういう意味でしょうか?
中島
「誰もが楽しめる博物館」をコンセプトにしています。障がいをもっている方もそうですし、資料の解説は多言語にもなっています。
井原
「さわれる」のもその一環です。目が見えない人でも楽しめるように、資料にさわれるだけでなく、それぞれの資料に点字のタグも付いています。ガラスケースの中にあると、ケースをさわることしかできませんからね。


井原さんから見る人類学博物館のすごさはどんな点でしょう?
井原
一般的に、博物館は静かにしなくては、というイメージだと思います。でも南山の博物館では、資料をさわりながら、一緒に来た人や学芸員と語り合うことで楽しんでほしいと思っています。鳴らせる楽器の展示もあり、静かでないといけない訳ではないんです。
あとは、展示資料との「距離が近い」ところ。ケースに入っているだけで、バリアを感じますよね。でも、ここの博物館ではケースがないので、心理的な距離感も近くなって、より楽しめるかなと思います。
ケースがないことで、博物館の運営上、大変な点はないですか?
井原
資料を落としたとか、バラバラになったとかは、ありますね。
土器は、元々バラバラのものを接合して作られているので、その接合部分はどうしても弱くなってしまいます。わざとではなく、その部分にグッと力を入れて持ったら、完全にバラバラになってしまったことはありましたね。でも、そういったことは承知の上での展示ですので、そんな時は、その場ですぐに直します。

さわってもらうための展示は、様々な苦労を乗り越えてきているんですね。
鈴木
一般的によく言われるのは、資料の破損と盗難の心配です。それにさわることによって、資料の傷みも少なからず早くなりますしね。
たとえば、「花輪台の土偶」というすごく小さくてかわいい資料があるのですが、来館者の皆さんがさわりますよね。小さな粘土を少し焼いただけの土偶なので、さわったらさわっただけ、ぼろぼろになっていくんです。ですので、今はレプリカを展示するようにしています。
他にも、銀細工は、さわるたびに磨かないと真っ黒になってしまいます。
他の博物館ではここまでさわりこんだ例がなく、みんな破損や盗難を恐れて「さわる」ことをやっていないんです。その意味でも、うちの博物館はこんな課題がある、というモデルにもなれます。銀細工のように、メンテナンスケアが大変なところはあるけど、日常的にクリアできる問題も多いです。今日もアルバイトの学生が来て、メンテナンスをすることになっています。
うちの博物館では、そのような問題を恥ずかしがることなく、先進的な試みとして、正確に記録し、公開しています。
当たり前のように日々取り組んでいることも実はすごく先進的なことなんですね。
鈴木先生から見る博物館の特徴はどんな点でしょうか?
鈴木
歴史系の博物館と言ったら、普通は歴史の流れなどをストーリーで理解できるように展示されているんですよね。でもうちの博物館にはストーリーはありません。たとえば、マリンガー・コレクションは、マリンガー神父が収集した資料です。資料同士の繋がりをストーリーでつなぐこともできますが、そのような展示方法にはなっていません。ストーリーを知ってもらうより、資料そのものをさわることで、作った人や使っていた人たちと対話をしてもらうことを優先しています。
順路もあるようでないし、どこから見てもいいし、全部見なくてもいいし、お客さんが自分の価値観と照らし合わせながら、資料と対話する。予備知識は、あれば楽しめるし、なくても面白い、そんな博物館なのかなと思います。

博物館に行くハードルがすごく下がったような気がします!
続いて、ワークショップについて教えてください。どのように企画されているのでしょうか?
井原
ワークショップは、年に3回ほど実施しています。先生が思いついたアイデアを、皆で話し合いながら、実現させることが多いですね。「さわる」というコンセプトのもと、博物館の資料により親しんでもらえるように企画しています。手探りの部分もあるのですが、毎回ご好評いただいています。
今後、さらに、やってみたい企画はありますか?
鈴木
僕は「におい」をテーマにしたワークショップかな。夏休みの小・中学生向け講座で、土器の匂いを子どもたちに嗅がせたら、家の冷蔵庫のにおいがする、って言ってたり(笑)ガラスケースに入っていると、絶対に匂いって分からないですよね。
あとは、大人ではなく、子どもがきっかけになれるワークショップをしたいですね。先日、保育園のお散歩で来た年長児さんが、大学祭の時にお父さんを連れて再訪してくれたんです。お子さんがお父さんに「こうやって優しくさわるんだよ」と、説明しても、お父さん半信半疑ですよね(笑)「え、本当にさわれるの?」って。そんな様子が見られたことがすごく嬉しくて。なので、今後は、大人が子どもを連れてきたくなるだけではなく、子ども自身の興味から広がるような企画を展開してみたいですね。
井原
私は、普段博物館に来ない方に足を運んでもらえるような、学内巻き込み型のイベントをやってみたいですね。2021年の大学創立75周年の時に、スガキヤのスーちゃんとのコラボイベントをきっかけに、来館してくれた学生がすごく印象的でした。
特に、普段R棟に来る機会のない学生が、どうしたらR棟の方まで来てくれるかな?と、よく考えています。S棟や、Q棟のラーニングコモンズに、サテライト展示をしようと企画したこともあったのですが、展示ケースや設置工事に係る費用が恐ろしいほど高くて…断念しました(泣)。いつかはやってみたいので、記事に残してください(笑)
中島
私は先生方にもこの博物館の良さが伝わるといいな、と思っています。授業の一環に組み込まれていないと、学生さんも博物館まで足を運びづらいのかなと思うので、より授業と密接になることで、学生さんにも来てほしいなと思います。ふらっと足を運んでほしいです。
鈴木
たまに職員の方で休憩時間に来てくださる方とかもいるんですよね。貴重な存在です。
「博物館浴」という言葉はご存じですか?
「博物館浴」?!初耳です。森林浴とか日光浴のお仲間でしょうか?
鈴木
そのような意味合いです。九州産業大学の緒方先生が始められた研究テーマなのですが、博物館の展示を見ることで、ストレス発散、癒しの効果がある、と言われています。
実際の実験では、博物館の展示を見る前と後に、簡単なクイズに答えてもらい、それぞれの集中力や血圧を測定します。すると、博物館の展示を見たあとの方が、集中力が15%から20%上がるという結果が出ています。
すごい!イライラしている人は毎朝博物館の展示を見てから、仕事を始めた方がいいですね。
井原
私たちは常にリラックスした状態で仕事をしているかも(笑)

続いて、MLA連携に関連して、図書館やアーカイブズとコラボできるとしたら、やってみたいことはありますか。
鈴木
アーカイブズとは、今も少しずつコラボをしています。博物館実習の一環で、毎年夏にアーカイブズの展示を作らせてもらっているのですが、博物館とは環境が全然違うので、世界が広がる感じで面白いですね。
図書館とやりたいことももちろんありますよ。個人的には、博物館に来た子どもたちが、図書館で調べものもできると理想的かなと思っています。場所もお隣で近いですし。ただ図書館の規定では中学生以下の利用はできないので、ちょっと難しいかも。あとは図書館のNANTOルームを活用して、一緒に何かできたら楽しそうです。
では、最後に一言ずつ博物館のアピールをお願いします!
井原・中島
とにかく来てください!!!
鈴木
博物館に来て、資料をさわって、土器の匂いを嗅いで、癒されて帰ってください。
YAMAZATO60+の企画にちなんで、皆さんに“Beautiful Campus, Nanzan Mind”についても聞いてみました。
まずは、“Beautiful Campus”から。
鈴木
お気に入りの場所は、やっぱり博物館です。
あとは、グリーンエリアかな。近所の子どもが遊びに来ていたり、学生が昼寝していたり、そんな様子を眺めるのが好きですね。特に寒い日の朝は、日向でふわっと暖かくなっているところの写真を撮ったりと、気持ち良い朝のひと時を味わっています。
中島
私はG棟あたりにある南国風の木が好きです。
井原
私もグリーンエリアかな。学生時代に、考古学実習で測量の練習をした思い出があります。
“Nanzan Mind”についてはどうですか?
中島
私が思うのは卒業生の皆さんの南山愛のすごさです。博物館にも卒業生の方が来てくださるのですが、学生時代のことを本当に事細かにお話しされます。
井原
私も卒業生に愛をすごく感じます。私も卒業生だと言うと、すぐに仲間に入れてもらえる感じがして、すごく嬉しいです。
鈴木
僕も同じですね。学生時代には興味なくて来なかったんだけど、という卒業生の来館者さんもいて。だから、僕は学生の時に来てくれる人を増やしたいな、と思いましたね。
