南山の先生

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理工学部・機械システム工学科

潮 俊光

職名 教授
専攻分野 システム理論,非線形理論
主要著書・論文 A Bisimulation-Based Design of User Interface with Alerts Avoiding Automation Surprises,'' IEEE Transactions on Human-Machine Systems, vol. 62, no. 2, pp. 316-323, April 2016. DOI:10.1109/THMS.2014.2360892(共著)
Abstraction-Based Symbolic Control Barrier Functions for Safety-Critical Embedded Systems, IEEE Control Systems Letters, vol. 6, pp. 1436-1441, 2022. DOI:10.1109/LCSYS.2021.3105716(共著)
A Mobile Robot Controller Using Reinforcement Learning under scLTL Specifications, Asian Journal of Control, vol. 24, no. 6, pp. 2916-2930, Nov. 2022. DOI:https://doi.org/10.1002/asjc.2712(共著)
将来的研究分野 サイバーフィジカルシステムの解析と制御のための形式的手法
安全でセキュアな制御系設計
担当の授業科目 機械システム工学演習,機械電子制御工学演習,機械電子制御工学特論(大学院)

安全でセキュアなスマート社会を支えるシステム制御

 情報とネットワーク技術(Information and Communication Technology : ICT)の発展は.私たちの生活を便利にしてきました.コンピュータ同士をネットワークでつなぐ技術が20世紀後半に急速に発展し,銀行のATM,電車の予約システムなど,様々なサービスが提供されています.21世紀に入り,モノとモノをつなぐ,いわゆるIoT(Internet of Things)の技術が発展して,ネットワーク家電,スマートグリッドなどのサービスが普及してきました.また,モノ(物理空間)と計算機(サイバー空間)との間で密接な情報交換を行うシステムはサイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System : CPS)と呼ばれ,スマート社会実現のキーテクノロジーの一つになっています.最近話題になっている自動運転はその典型例です.車載ネットワークを使って,レーダー,カメラなどのセンサデータやパワートレインなどの状態などをECUと呼ばれるマイコンに送り,車両の様々な制御を行っています.しかし,自動運転のようなCPSでは,一歩間違えば人間を危険にさらすことになります.アメリカでは,自動運転の車両が前を横切る物体(歩行者)を正しく認識できずに停止せず,歩行者と衝突して死亡させるという痛ましい事故が発生しています.CPSは人間の幸福のためにあり,人間を不幸するようなCPSを開発してはいけません.どんな状況においてもCPSの安全性を担保する技術の開発がスマート社会の実現にとって必要です.ICTを使って機械(モノ)が安全に稼働するように制御する理論を構築し,その理論に基づいた技術開発は機械システム工学において重要な研究課題です.

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 さらに,最近では,大量のデータを同時に送りつけるDDOS攻撃,不正アクセスによる情報漏洩やシステムの乗っ取り等,セキュリティに関わる被害が急増しています.例えば,自動運転中に不正アクセスによって自動車が暴走するというような事件を未然に防ぐことは重要です.そのため,最近では,安全性だけでなくセキュリティも考慮したCPSの実現への要望が高まってきています.

 CPSは様々な構成要素が複雑に絡みあっているので.設計者の経験と勘でCPS を設計することは不可能で,数理的な手法を使って,CPSの安全性とセキュリティを客観的に保証する必要があります.私の研究は,計算機科学の分野で発展してきた形式的手法と呼ばれる数理的手法とシステム制御理論とを融合して,このような安全でセキュアなCPSを実現するための設計理論の構築を目指しています.さらに,最近注目されている人工知能技術を活用してCPSの性能の向上を目指した研究もしています.

 また,発電所や航空機のような複雑なシステムでは,一部の状態しか操作者がモニタリングできないことが一般的で,その場合にはモニタリングできる状態からシステム全体の状態を推定して操作することになります.このとき,その操作によるシステムの動作が操作者の予測動作と大きく異なってしまうと,操作者がパニックになり,誤った操作をしてしまい,その結果,事故につながることがあります.このような現象をオートメーションサプライズと呼んでいます.その例が1994年に名古屋空港で発生した中華航空140便墜落事故です.一方で,操作するために必要な情報以上に多くの情報を操作者に提示するとかえって操作者が混乱してしまい,適切な操作ができなくなることがあります.そのような現象が,1979年のスリーマイル島原子発電所事故で発生しました.当時,多くの警報装置が設置されており,それが同時に作動したことが現場に大きな混乱を招きました.スマート家電のように身近なモノがスマート化するとき,安心して操作するために必要かつ十分な情報を操作者に提示することが重要です.このような提示装置の設計をシステム制御理論の立場から研究しています.