南山の先生

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理工学部・機械システム工学科

陳 幹

職名 教授
専攻分野 制御理論
主要著書・論文 Learning, Control and Hybrid systems (共著、pp.365-379)
ディスクリプタ表現の冗長性を利用したシステム解析(共著)
構造化特異値μを用いた安定解析― 実数μ解析(共著)
将来的研究分野 ロバスト制御理論の応用
担当の授業科目 機械電子制御工学実習など

制御「理論」とは?

近年は二足歩行ロボットがテレビにでるようになり、「制御」という言葉も一般に使われることが多くなったように感じます。さて、制御とはどういう意味でしょう。辞書には「機械・装置などを目的とする状態に保つために、適当な操作を加えること」(三省堂大辞林)といった意味の内容が書いてあります。歩行ロボットの場合は「なめらかな自然な歩行動作をさせるために、各関節を動かすモータに適切な入力を加えること」と読みかえてよさそうです。歩行時には脚部の各関節の角度は時々刻々と変化します。ということは各関節に搭載されたモータへの入力、すなわち、モータへ加える電圧が時々刻々と変化するはずです。この時々刻々と変化する入力電圧を決めることが「制御」といえそうです。

テレビに出演する歩行ロボットはなめらかに歩いていますが、そのための入力電圧はどのようにして決めているのでしょうか。いいかげんな入力電圧を与えるとあばれたり、転倒して壊れてしまうかもしれません。ロボットを壊さずに歩行させるためには、実験を行なう前にコンピュータ上でシミュレーションを行なって、適切な入力電圧を求めているはずです。

ではロボットの動作をシミュレートするにはどうすればいいでしょう。ものが動く時にはその運動の状態は運動方程式とよばれる微分方程式の一種で近似できることが知られています。ロボットの動きもこの運動方程式を用いることで近似できそうです。高校の物理の教科書にものっている、ma = F で表現される運動方程式は、質量 m の質点の加速度(まはた角加速度) a が質点に加えられた力 F によって定まるということを意味しています。質点の位置や角度が与えられた力からすぐに定まるのではなく、力は質点の加速度、角加速度に作用するということです。

歩行ロボットの制御で興味があるのはやはり脚部の動き、すなわち、各関節の角度をどのように動かしていけばよいか? また、シミュレーションにおいては、入力電圧を定めたときに各関節の角度が時間とともにどのように変化するか? です。ところが、運動方程式から定まるものは加速度、ロボットの場合は角加速度であり、角度がすぐに求まるわけではありません。角度を求めようとすると、微分方程式を解く必要があります。別の視点からみると、微分方程式の解が脚の動き方(各関節の動き方)を与えるといえます。

あらかじめ入力電圧が与えられている場合は、その微分方程式の解を求めることでシミュレーションができそうです。では「適切な入力」を探すにはどうすればいいのでしょうか。自然な歩行動作を達成する脚の動き、なめらかな各関節の動き方はどこかに存在するでしょう。その動き方が微分方程式の解になればいい、すなわち、微分方程式の解をのぞましい形(関数)にするための入力を探すということが制御理論ということになります。

詳細は省略しますが、微分積分や線形代数を応用することで制御の「理論」が構築されています。数学がなんの役にたつのかわからないという方もいると思いますが、制御理論においては数学抜きではなにもできません。現実世界にあるモノが数学で構築された理論通りに動いたときはまるで魔法をみているようですよ。