南山の先生

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理工学部・データサイエンス学科

小藤 俊幸

職名 教授
専攻分野 数値解析,応用数学
主要著書・論文 『常微分方程式の解法』(共著、共立出版、2000年)、
『微分方程式による計算科学入門』(共著、共立出版、2004年)、
『考える力をつけるための微積分教科書』(学術図書出版社、2020年)
将来的研究分野 数理モデルの諸科学への応用
担当の授業科目 微積分学I・II、代数系入門

高木貞治先生の『解析概論』を読んでみやー!

ある年齢から上で、理科系の教育を受けた人ならば誰でも、高木貞治(たかぎていじ)先生(1875年~1960年)と聞けば、ただちに『解析概論』が思い浮かぶのではないだろうか。かつては大学初年級の教育において、微分積分学の「定番」であったであろうと思われる分厚い本である。現在は、「軽装版」ということで、コンパクトになっているが、以前は、もっと大判で、装丁もしっかりしていた。ちょっとした武器にもなりそうで、出刃包丁ぐらいにならば十分太刀打ちできたのではないかと思う。もちろん、内容は「軽装版」となった今でも、しっかりしている(そりゃ、あたりまえやて!)。極限の概念をいわゆるイプシロン・デルタ論法できちんと展開していくという(今ではほとんど見られんよーになった)スタイルで、微分積分学が説明されている。ただし、高木先生ご自身は、世界に認められる業績を挙げた初の日本人数学者であり(日本近代数学の父と称されることがある)、整数論がご専門である(と言っても、代数的整数論という日常的な整数からは相当かけ離れた「整数」を扱う分野なのだが)。このことの認知度はあまり高くないらしい。理系でも、かなりの数学好きでないと知らないようである。高木先生が、実は、この地方のご出身であることは、さらに認知度が低いようである(定期試験で出身県を問う問題を出題してみたが、正答率は低かった)。岐阜県大野郡数屋村(現本巣市数屋)というところのお生まれである。大垣から樽見鉄道樽見線で(一両だけの電車に乗って)数駅ほど行った「モレラ岐阜」の先のあたりに生家がある(らしい)。高木先生の生涯や業績については、雑誌『数学セミナー』(日本評論社、2010年3月号)で特集記事「高木貞治と類体論」が組まれているので、参照されたい。没後50年を機に企画された特集のようである。(高瀬正仁『高木貞治 近代日本数学の父』岩波新書、2010年も参照)日本数学会でも、「世界的な業績を残した近代日本の数学者-高木貞治」と題するDVDが制作されている。ただし、(制作者には大変申し訳ないのだが)とても退屈である。15分ほどの長さで、授業で学生に見せるつもりで1枚頂いたのだが、少なくとも1年生向けに上映することはあきらめた。多くの学生が、15分間耐え切れずに居眠りをするおそれがあるからである。ゼミで上映して、「まっと見やすいDVDを制作しやー」を卒業研究のテーマにしようかと結構本気で考えている。それはともかく、DVDの最後に収録されている「高木先生の肉声」は、とても興味深い。1950年(昭和25年)に放送された『朝の訪問』というNHKのラジオ番組からの音声で、インタビュアの問いに答える形で、いくつかのことを語られている。特に、数学教育について、知的な訓練が大切だということを強調されている。短いやりとりのため、発言の趣旨を正確に理解できているのか、やや不安だが、学生が言われた通りのことだけしかできず、応用が利かないような「促成栽培的」教育をやんわりと、しかし明確に批判されているのだと思う。正直、「耳の痛い」お言葉である。瀬戸キャンパスの図書館にはDVDがあると思うので、興味のある方は、実際に聴いてみられるとよい。また、本文を読んで興味を持たれた方は、とりあえず、『解析概論』を開いて見られるといいだろう。いずれにせよ、「本物」に接することは重要である。えかッ。