南山の先生

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理工学部・電子情報工学科

藤原 正浩

職名 講師
専攻分野 計測工学,ハプティクス
主要著書・論文 ・Two-Dimensional Measurement of Airborne Ultrasound Field Using Thermal Images, Physical Review Applied, American Physical Society, 18/4, pp. 044047-1-6, Oct. 2022. (共著)
・Reflection Pattern Sensing for Valid Airborne Ultrasound Tactile Display, In 2021 IEEE World Haptics Conference (WHC), pp. 121-126, Jul. 2021. (共著)
将来的研究分野 センサフィードバックを有するインタフェースシステム
担当の授業科目 電子工学基礎、電子通信工学

「非接触な」触覚の可能性

人にくすぐられてくすぐったく感じた経験は、誰しもあると思います。しかし、自分で自分の身体をくすぐってみると、それほどくすぐったくは感じません。これは、人間が自分の手を動かすときに、脳が運動神経に伝える情報のコピーを感覚神経にも伝えているためと考えられています。つまり、自分自身が起こそうとする運動は、事前にその情報を感覚系が知っており、実際の感覚を容易に予測できるため、くすぐったく感じにくくなっているということです。この予測は簡単に思えるかもしれませんが、実際には「自分自身が起こす運動」と「その結果として生じる感覚」との間の関係を数多く体験して、知っている必要があります。この体験に基づいて脳内に構築される、自分の身体を含む世界全体についての理解を、認知モデルと呼びます。

認知モデルによって予測される感覚と実際の感覚が一致しないと、人間は不快感やストレスを感じる傾向があります。例えば、他人にくすぐられることや、スマートフォンやコンピュータなどの情報機器の操作において、指先による入力に対する画面の反応が思い通りにならないときに感じるイライラなどです。このようなストレスを減らし、さらには老若男女が直感的な操作できるようにすることは、ヒューマンインタフェース研究の目標の一つです。ここでのインタフェースは、人間と情報機器との「接触面」を意味し、人間からの入力を受け付け、また、人間に対して情報を出力する部分を指します。認知モデルの成り立ちを踏まえると、直感的なインタフェースを実現する方針の一つは、現実の物理的世界に近い特性を、情報機器が再現することと言えます。

現代の情報機器の出力は、ほとんどが映像と音声で構成されています。これらは人間に豊富な情報をもたらしていますが、感覚という観点で見てみると、視覚と聴覚への刺激に大きく偏っています。普及しているインタフェースとしても、バイブレーションやボタンの反力制御など触覚による刺激はありますが、視聴覚刺激のバリエーションと比べると非常に限定されているのが現状です。触覚は視聴覚と比べて文字や数量といった論理的な情報を大量に伝達するのは苦手です。しかし、直感的な情報を瞬時に伝えることは得意であり、バイブレーションによる情報提示はその一例です。それにとどまらず、触覚的な情報伝達には広大な可能性があり、感情の伝達などで視聴覚より優れた利点があると考えています。

情報機器のインタフェースとして触覚を導入するための課題は、主に二つあります。一つは、触覚が基本的に「接触」を必要とし、視覚や聴覚のような遠隔からの刺激が困難であるという点です。もう一つは、人工的な構造物を接触させて触覚を刺激しようとすると、人間の認知モデルが予測するリアルな触感を再現することが難しいという点です。例えば、バーチャルリアリティなどでハンドグリップ型の触覚提示機器を使用すると、その機器表面の手触りをまず感じてしまい、それとは異なる手触りを伝えることが難しいといった点です。

これらの課題を解決するアプローチとして、超音波を用いて「非接触で」触覚を刺激し、それをインタフェースに活用する研究を進めています。大きな振幅の超音波は、人間が触覚で感じ取ることができるほどの圧力を作り出し、皮膚を安全に刺激することができます。さらに、刺激の位置や時空間的なパターンを自由にコントロールすることも可能です。これらの利点を最大限に活かし、直感的なインタフェースを開発することが、この研究の目標の一つです。