学部別インデックス
総合政策学部・総合政策学科
武内 博子
職名 | 講師 |
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専攻分野 | 日本語教育 |
主要著書・論文 | 武内博子(2023)「介護現場における日本人職員と外国人職員向けのコミュニケーション支援ーワークショップ参加者のコミュニケーションに関する気づきからー」『日本語研究』 (43), 31-44. 武内博子(2021)『介護と日本語教育 日本語教育読本5』webjapanese 武内博子(2018)「介護現場におけるEPAに基づく外国人介護人材とのコミュニケーション−日本人職員の視点から−」『日本語教育研究 』(42) ,157-171. 武内博子(2017)「EPAに基づく介護福祉士候補者が捉えた介護福祉士国家試験対策過程とは ーインタビューの分析からー」『日本語教育』(166), 1-14. |
将来的研究分野 | 介護分野における外国人職員と日本人職員のコミュニケーション支援・参加型アクションリサーチ 高等学校における外国人生徒の日本語支援 |
担当の授業科目 | 日本語Ⅱ(総合) |
日本語をツールに人や社会と繋がり豊かに生きる
皆さんは外国語学習の経験があると思います。どんな目的で学びましたか。例えば「英語ができる」「ベトナム語ができる」学習者にどのようなイメージがありますか。
私が日本語教師として様々な背景を持つ日本語学習者に携わってきた中で忘れられないことばがあります。それは「伝えたいことを日本語で何と言えばいいか分かる。でも、どうしても相手に伝えられない」というある外国人介護士の方から言われたことばです。「どうせ言っても聞いてもらえない」と相手の日本人とのコミュニケーションをあきらめていました。当時、日本語の言葉や文法を学び、適切な表現力を高め、場面に応じて使用できれば、日本語でコミュニケーションが取れるようになると考えていた私の価値観は音を立てて崩れました。コミュニケーションは相手ありきで行われている、その当たり前のことに気づかされ、同時に「なんとかせねば」という思いから、言語学習を通じて人と社会と繋がる力の育成までをデザインした日本語教育実践は何かと言う大きな問いを立て今日まで教育実践・研究をしています。
主なテーマは介護施設等で働く外国人介護士と日本人職員へのコミュニケーション支援です。介護分野では、2008年から日本・インドネシアの経済連携協定に基づくインドネシア人の介護福祉士候補者の受入れを皮切りに、2025年現在4つの在留資格により海外から介護士が来日しています。
さて、介護施設における日本語でのコミュニケーション活動をみると、施設の利用者や利用者の家族をはじめ、共に働く職員と情報共有のためのやり取りなど、さまざまな場面に応じた聞く・話す・読む・書くといった言語活動があります。外国人介護士の方々は、介護施設での就労に向けて日本語を一定程度学びます。しかし、想像してみてください。自分が外国人介護士の立場であったら、外国語である日本語で円滑に業務をこなせるでしょうか。きっと日本語使用に不安を覚えながら、日本語話者を相手にやり取りをしているのではないでしょうか。課題遂行のための日本語力を育むことも重要です。しかし、冒頭のような「言いたいことが言えない」状況では、困った時に助けを求めることもできませんし、そもそもコミュニケーションが生まれません。「言いたいことが言える」には、まず、コミュニケーションしやすい環境が大切です。コミュニケーション場面で上手く伝えられなかったり、失敗したと思うことがあっても「ごめんね」と言って、また続けられるような、相手と関係性を育んでいけることが大事です。コミュニケーション場面が安心・安全な場であってこそ、コミュニケーションを積極的にとっていく姿勢が生じ、結果言語学習も進むものだと考えます。
このようなコミュニケーションの環境整備の一実践として、介護現場の職員を対象とした人間関係の構築を志向したコミュニケーションワークショップや、「やさしい日本語」を使用したコミュニケーションの取り方の勉強会、コミュニケーション上の課題を共有し解決に向けた具体案を考えるワークショップなど、研究の知見を援用し実践プログラムを考え実施し、その場で起こったことや参加者に生じた気づきを記述しています。実践を一つずつ積み上げていく中で、実践から浮かび上がる理論もあるはずです。
しかし何より、外国人介護士が「いろいろあったけど、日本へ働きに来てよかった」と思え、日本語をツールに人と関係を築きながら日本で生活していけること、そして、日本人職員も外国人介護士との関りから相手の立場に立って考え行動を起こし「外国人介護士を受け入れてよかった」と思えるような教育実践を目指しています。