南山の先生

学部別インデックス

総合政策学部・総合政策学科

澁谷 英樹

職名 准教授
専攻分野 財政学
主要著書・論文 「海外との税率差がわが国の法人実効税率に与える影響―税効果会計に関する注記を用いた推計―」、第14回「税に関する論文」奨励賞。
「学校給食関連事業者に対する支援の重要性―財政状況資料集のテキストマイニングによる実証分析―」、「食と農・流通における新型コロナウイルス対策 懸賞論文・提言」佳作。
将来的研究分野 ・財政文書に対するテキストマイニング
・税収の予測
・暗号資産(仮想通貨)に対する課税の分析
・財政指標と公会計指標の組み合わせ分析
担当の授業科目 「財政学」,「地方財政論」,「地域経済論」等.

私たちが財政をつかまえるには

 財政は、この国に暮らす全ての人々の生活にかかわってくるにもかかわらず、とても大きく近づきがたい存在でもあります。財政には、予算、財政支出、補助金、税、社会保障、公債などといった分野があり、それぞれに数えきれないほどの制度が定められ、毎年のように改正されていきます。いずれも法律にかかわりますし、国庫の運用にかかわる責任の重いものです。そのため、財政をつかさどる役所には、昔から国中で最も優秀な成績を収めた人が入庁してきました。もちろん、就職先として人気の公務員試験にも財政学が含まれています。

 このように書くと、いかにも財政は暗記が重要な、退屈な学問だというように思えます。たしかに、財政は長い歴史をもち、先例と経験則に裏打ちされた部分が大きい学問です。私も財政に関する資料を集めていると、無限に覚えなければならないことがあると感じられることがあります。しかも、財政の実務を最もよく知る人は、かならず国の中枢にいるのです。それならば、若い研究者や学生にできることが無いようにも思えてしまいます。

 そうではありません。財政は非常に多面的であるがゆえに、新しい捉え方ができる学問です。特に、近年は政府が公表するデータが増える一方で、データを分析する手法も様々な方法が生まれています。たとえば、財政については公務員の方々が膨大な文書を作成しています。その文書によく出現する言葉を観察することで、財政の中でもいま重要なことがらを取り出すことができるでしょう。これはテキストマイニングと呼ばれる方法です。

 それによると、東日本大震災の前には、景気の低迷が市町村にとって最も大きな課題でした。これは、生産活動が停滞することによって税収が減り、地域の中に財政的な支援を望む人がいても救うことができないからです。しかし、東日本大震災が起こってからは、こうした構図が大きく変わってきています。豪雨や台風といった自然災害に注目が集まるようになり、その復旧・復興には政府が幅広く支援をおこなっています。市町村の災害復旧費は、ここ数年は東日本大震災が発生した年と同じ水準にとどまったままです。さらに大きな変化として、いま全国の至るところで津波避難タワーが建設されています。この公共事業は東日本大震災以前には全くみられないものでしたから、非常に大きな変化といえるでしょう。

 さらに、財政に大きな変化をもたらしていることがらとして、新型コロナウイルス感染症を外すことはできないでしょう。2020年に大きく取り上げられた(ひょっとすると心待ちにしていた)私たちに対しての特定給付金や、市町村に対しての臨時交付金といった語は、大きく景気が悪化した2010年ごろにも何度もあらわれた言葉です。これは、危機に対応した場合の財政運営がよく似通っている一方で、政府が前例にない施策を打ち出した結果でもあります。

 また、私たちは街なかを歩くだけでも財政にかかわる光景をみることができます。南山大学の周辺では、自由ケ丘・千種台は典型的な住宅団地であり、注意深く観察すると名古屋市住宅供給公社の看板に気づくでしょう。自由が丘駅の周辺には市立・県立の各種学校や病院も集まっており、非常に計画的なことがわかります。わけても公立病院がいま、地域の医療提供体制を維持するために尽力していることは言うまでもありません。栄や久屋大通を歩けば、市営駐車場の空車・満車を示す標識がそびえたっています。駐車場の時間貸しは外出自粛の影響を強く受けている事業です。

 こうしたものは全て財政学の範囲ですから、皆さんも気軽に関心を持ち、身近な問題として考えてみてください。