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総合政策学部・総合政策学科
大八木 英夫
職名 | 教授 |
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専攻分野 | 環境科学・自然地理学・水文学 |
主要著書・論文 | 「涌池における湖水の理化学的特性とその形成機構」(単著、日本水文科学会2005年) Seasonal changes in water quality as affected by water level fluctuations in Lake Tonle Sap, Cambodia”(共著, Geographical Review of Japan Series B, 2017年) 名古屋市名東区猪高緑地・すり鉢池における水域の歴史的変化と水収支について」(共著、なごやの生物多様性2023年) |
将来的研究分野 | “水”を基軸として地球環境変動や人間活動が自然環境に与える影響について |
担当の授業科目 | 「環境科学」・「環境と文明」・「生活環境学」 |
自然界における水のあり方・分布・性質・由来ならびに水と人の相互関係
自然界における水のあり方・分布・性質・由来ならびに水と人の相互関係をテーマに,"水"を基軸として地球環境変動や人間活動が自然環境に与える影響についての研究について取り組んできている。主に,熱帯地域における自然環境と生物多様性維持機構の解明や気候変動がもたらす自然環境への影響評価について取り組み,フィールドワークをしながら自然環境の継続的な観察を進めています。
第一の調査対象は,東南アジア最大の流域面積を誇るメコン川流域に位置する,主に季節による湖面積の変動が世界でも有数の規模であるトンレサップ湖(カンボジア王国)です。そこでは,熱帯地域における物質循環と生物多様性維持機構の解明について研究を実施してきました。カンボジア王国では,社会経済基盤の整備が未熟なまま,トンレサップ湖北岸に位置する世界遺産アンコール遺跡群を訪れる観光客が激増し,観光産業が計画性のないまま発展してきました。特に,同国の長年にわたる混乱により自然的資料が散逸して状態で過去の自然環境の状態が明らかでないため,環境学の視点に基づく熱帯地域の生物多様性維持機構に関して,同地域に顕在化しつつある自然環境汚染に着目し,2004年から水質環境の現状を評価しました。同湖の乾季の湖面積は約2,500 ㎢(琵琶湖の約4倍相当)であるが,雨季にはその約5倍にも広がることが知られており,乾季と雨季が明瞭な水文気象条件下による水質の季節変動について論じました。乾季の湖水には人為的汚染物質の比率が高くなる一方,雨季にはメコン川からの逆流水による希釈作用が働くことを指摘し,環境政策における流域的規模の水環境保全の重要性についても言及しました。
第二の調査対象として,日本の大深度湖沼において,地球規模の気候変動による生態系への湖沼環境の将来予測の評価に関する研究を進めてきました。日本には,最大深度が水深100mを超える深い湖が11湖あります。そのうち,田沢湖,支笏湖,十和田湖,摩周湖,倶多楽湖,本栖湖のそれぞれの湖底で水温の観測を進めてきました。地球温暖化の傾向として,21世紀に入ってから気温上昇率の停滞(ハイエイタス)が見られ,その原因として,海洋における深層への熱移流の増加や太平洋10年規模変動との関係が指摘されており,陸地における湖水の熱的環境についても議論していく必要があるといえます。しかしながら,各地で検証されている熱的環境の解析は,グローバルな気候変動に対する解析であり,その湖沼が位置する地域的な気候変動を考慮した解析には至っておらず,特に,全面結氷・部分結氷を一つの指標として,より現実的な湖の熱的環境を整理した点についてはほとんど進められていません。また,現在では,全面結氷した場合における,『氷の厚さ』についても解析を共同研究で進めています。全面結氷期間の短縮化は,湖面蒸発の長期化による水循環の活発化などで基礎生産をはじめとする生態系に影響を与えることが考えられ,世界の大型湖沼において,地球規模の気候変動による生態系への湖沼環境の将来予測の評価に貢献したいと考えております。