南山の先生

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総合政策学部・総合政策学科

狭間 諒多朗

職名 准教授
専攻分野 社会学
主要著書・論文 『分断社会と若者の今』大阪大学出版会(共編著、2019年)
『格差社会のなかの自己イメージ』勁草書房(共著、2018年)
『「地元」の文化力:地域の未来のつくりかた』河出書房新社(共著、2014年)
『コロナの影響と政策:社会・経済・環境の観点から』創成社(共著、2022年)
将来的研究分野 計量若者論
担当の授業科目 「社会学概論」「社会と文明」「社会調査法」ほか

他者のゲームルールを明らかにする

これを読んでいるあなたは、進路のために頑張って勉強をしていたり、自分の将来を考えて何らかの努力をしていたりすることでしょう。一方で、広い世の中には、将来のことは考えずに今を楽しんでいる人もいます。遊ぶ時間を削って努力しているあなたには、かれらの行動が理解できないかもしれません。しかし、逆の立場から考えると、今を楽しむことを大事にしている人にとっては、あなたが苦しい思いをしてまで将来のために努力していることが理解できないかもしれません。

このような互いの無理解が生まれるのは、互いにプレイしているゲームが違っており、異なるルールに従って行動しているからです。将来のために努力しなければならないというルールに従っている人からみると、今を楽しんでいる人はルール違反をしているようにみえます。反対に、今を楽しんだほうがよいというルールに従っている人からみると、将来のために今の楽しいことを我慢している人がルール違反をしているようにみえます。本当は違うゲームをプレイしているのに、相手も自分と同じゲームをプレイしているはずだと思っていると、相手の行動は理解できないのです。

ここでいうルールというのは、価値観や常識という言葉に言い換えることができます。私が専門とする社会学では、このようなそれぞれの人が持っている価値観や常識を明らかにすることで他者の行動を理解しようとする研究が盛んに行われています。とくに私は、人々の社会的な立ち位置や置かれた状況によってプレイしているゲームが異なるのではないかという問いを立てて研究しています。さきほどの例でいえば、将来のために努力している人は、努力した分の見返りが期待できる状況にあるからこそ、今の楽しみを我慢してでも頑張っているのかもしれません。反対に、将来よりも今を大事にしている人は、頑張っても報われる見込みが少ない状況にあるのかもしれません。この社会では、さまざまな状況に置かれた人々が、さまざまなルールにしたがって行動しているということがわかります。

また、他者の行動を理解しようと研究を行っていると、自分が無意識のうちに前提として持っているルールに気づくことも多々あります。もし、あなたが「どうして将来のことを考えずに今を楽しむ人たちがいるのか」と疑問に思ったのなら、それはあなたが「今の楽しみを我慢してでも将来のために努力するべき」だと考えていることの裏返しなのだといえます。

このようにして、自分の持っているルールが絶対ではないと気づくことはとても大切です。自分の視野を広げることができて、柔軟な考え方を身につけることができます。また、社会に住むいろいろな人に思いをはせることによって社会についてより深い理解ができるようになります。そして、このことが、よりよい政策の立案にもつながっていくのだと思います。

私は近年、特に若者の意識や行動を研究しているのですが、これも若者が持つルールを明らかにすることで、現在の社会、そして未来の社会を理解しようとする目的があります。そんな若者にかんする研究では以下のような議論が盛んに行われています。

  • 今の若者はなぜ将来よりも今を大事にするのか
  • 今の若者はなぜモノを買わないのか
  • 今の若者の生活満足度はなぜ高いのか

これらの問いにも無意識のうちに前提としているルールが潜んでいるのですが、お分かりになるでしょうか。