南山の先生

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総合政策学部・総合政策学科

梁 暁虹

職名 教授
専攻分野 漢語史(中古・近代)
主要著書・論文 『佛教詞語的構造與漢語詞匯的發展』(単著、北京語言學院出版社、1994年)『日本禅』(単著、浙江人民出版社、1997年初版;台湾圓明出版社、2000年再版)『佛教與漢語詞彙研究』(単著、台湾仏光文化出版社、2001年)『佛教與漢語史研究-以日本資料為中心』(単著、上海古籍出版社、2008年)『日本古写本単経音義与漢字研究』(単著、中華書局、2015年)『日本漢字資料研究―日本仏経音義』(単著、中国社会科学出版社、2018年)など
将来的研究分野 日本仏経音義の研究;日本俗字の研究
担当の授業科目 「東洋文明史研究(大学院)」、「地域と文明A(アジア)」、「総合政策プロジェクト研究Ⅰ~Ⅳ」、「総合政策中国語」他

「過去、現在、未来」は、どこから来たか知っていますか?

佛教は、最初インドから中国に渡り、それから日本に来たことは、御存知でしょう。従って、佛教はこの二回とも東へと移動したわけですが、この東進は二つの国にどのような影響をもたらしたかについてはっきりした考えをもっている人は、案外少ないのではないかと思えます。そこで、まず中国を例として、ちょっと考えてみましょう。

中国の漢朝、これを前後二つに分けて、西漢と東漢とよびますが、ちょうどその過渡期のころ、佛教が伝来され、いろいろな経過を通して唐の時代まで流行、発展していきました。それまでに佛教はすでに一つの外来宗教文化から脱皮し、印度仏教に取って代わった中国佛教に姿を変じ、中国は国際佛教文化の中心地になったのです。

その発展途上、中国の伝統的文化に巨大な影響をもたらしたのです。哲学から文学、音楽から美術、民間の信仰から風俗習慣、とそのいろいろな面において、 '佛(ほとけ)'の陰影がみられます。佛教はそうして中国固有の儒教と道教にちょうど三足鼎(さんぞくかなえ)になるように、もう一つの「足」をつけたし、伝統的文化の主流の一つに数えられるようになりました。カメラの三脚が地に置かれて、安定を保つように、その三足鼎も中国の文化に安定感をあたえる役目をはたしてきました。

私の専門分野は、中国語の歴史であり、佛教と漢語の関係についての研究に大変興味をもっております。

佛教が中国の文化に影響を及ぼした具体的な例を一つのべてみましょう。それは、佛典の翻訳ということですが、この翻訳作業は東漢の時代にすでに始まり、魏晋南北朝に飛躍的発展し、隋唐の時代に盛運を迎えました。北宋の時代に衰えはじめたとはいえ、約一千年間翻訳作業は続けられ、その数たるや、膨大にして、中国の人々に巨大な文化遺産を残しました。その後、漢文で書かれた大蔵経は、中国以外、日本、韓国・朝鮮、ベトナム等に流伝し、一大漢文佛教文化圏を形成するようになったわけです。

漢文佛典を翻訳するにあたって、翻訳者は、もちろん元来の漢語の語彙を使ったのではありますが、佛教は全く新しい宗教文化として中国に紹介されたため、多くの新しい概念を表現するのに、彼等はどうしても新語をつくらざるをえませんでした。ある統計によれば、このようにして造られたいわゆる"佛家語"は、約三万五千ほどもあるとのことです。現在日常語として使われているコトバとして、例えば、次のような表現があります:世界、実際、彼岸、平等、唯心、悲観、相対、絶対、礼拝、道場、布施、など、よく使われる成語として、即身成仏(そくしんじょうぶつ)、以心伝心(いしんでんしん)、不可思議、大慈大悲、など。全てワープロでひらがな漢字変換一発で出てくるものです。そして、われわれと切っても切り離せない"過去、現在、未来"という表現ですが、実はこれは、佛典翻訳作業から生まれたものなのです。

漢文佛典が中国から日本にもたらされた際、これらの"佛家語"も東進し、日本語にも吸収されたわけであります。「過去、現在、未来」以外、「お邪魔致します」の「邪魔」また「檀那、旦那さん」など、外にもたくさんあります。

ふりかえってみると、私の漢文佛典の言語研究も、すでに過去三十年以上にもなってしまいました。まだ将来研究する価値のあるもの、また、現在しなければならないことがたくさんあります。できるかぎりずっと続けて研究できれば、と思っています。なぜなら、それは有意義なことと、信じているからです。

中国語を勉強するということは、それは皆さんの日本語能力をも充実させ、語感を培うにも威力を発揮します。漢字文化のひとつとして、一緒にじっくりと勉強してみませんか。