南山の先生

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総合政策学部・総合政策学科

石川 良文

職名 教授
専攻分野 都市環境政策、地域経済、政策評価
主要著書・論文 『コロナの影響と政策―社会・経済・環境の観点から―』(編著、創成社)
『大震災からの復興と地域再生のモデル分析』(共著、文真堂)
『地域公共交通政策の新展開』(共著、勁草書房)
『環境政策統合-日欧政策決定過程の改革と交通部門の実践-』(共著、ミネルヴァ書房)
将来的研究分野 都市環境政策の経済評価、公共政策による地域経済への影響
担当の授業科目 「環境行政論」、「都市環境論」、「環境調査法」、「プロジェクト研究」

環境質も考慮して公共政策を評価する

 交通問題や環境問題などの問題を解決するため、様々な政策が国や地方自治体によって実行されています。このような公共政策は、ある特定の側面だけに着目して実行するかしないかを議論するべきではないでしょう。例えば、日本では人口減少が進む中、バスや鉄道の乗客が減少していますが、「利用者が減っている路線は無駄で効率が悪いので廃止すべき」という議論をよく目にします。しかし、果たして「無駄」とか「効率」とは何をもって言っているのでしょうか。「利用者が少なく料金収入がほとんど見込めず、経営的に成り立たないような事業は効率的でない。」という主張も見られます。これは民間経営的(私的)な立場からすれば、確かにその通りと言えるかもしれません。しかし、公共交通は、経営面だけでなく、市民の福祉の増大がどの程度見込めるかについても議論しなくてはなりません。つまり、公共交通の維持・整備は、まず直接的な利用者にとって目的地までの時間や費用が削減され便益をもたらしますが、皆が自動車から公共交通に乗り換えれば、渋滞緩和などにより大気環境が改善され、それを享受できるかもしれません。一方、新しい交通システムの整備を行えば、その開発によって貴重な自然環境が失われることによるデメリットも考えられます。このような環境面の影響も考慮して、政策の是非を判断する必要があります。

 民間経営的な私的立場だけでなく、このようなさまざまな社会的立場で公共政策の是非を議論することも重要で、そのための方法に費用便益分析という方法があります。費用便益分析の考え方では、社会的立場から、事業による長期にわたるあらゆる「便益」の合計とあらゆる「費用」の合計を比較し、「便益」の合計が「費用」の合計を上回っているならば、「効率的である」と判断しその政策を実行する必要があると考えます。これには先に述べたような環境質の改善や悪化、利用者や周辺住民の便益も考慮されます。費用便益分析による公共政策の評価は、日本が海外援助プロジェクトを行う場合や、欧米先進国では国内の政策実行の判断材料を得るためこれまでも行われてきましたが、かつては日本国内の政策にはなかなか定着せず、一部の事業で形式的に行われる程度でした。様々な立場から客観的に評価せずして、政治的経済的要請から主観的に事業を実行する場合が多かったのです。しかし、国や地方自治体の財政が逼迫してくると、無駄な事業をすべきではないという議論が活発になり、国内でも制度的に定着しつつあります。従って、この時期にしっかり費用便益分析などの公共政策の評価手法を勉強して、限りある財源の下で無駄な事業を排除し、どのような公共政策を実行すべきかを考えていくことは非常に重要です。