南山の先生

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総合政策学部・総合政策学科

井上 洋

職名 教授
専攻分野 行政学、行政史
主要著書・論文 「イギリスにおける近代的行政機構の確立過程に関する一試論 ―ministerial departmentの形成過程を中心に ―」、「ヘンリ・テイラー『政治家』(1836年)と19世紀イギリス行政史研究」、「公務員制度改革の歴史的文脈 ―19世紀イギリスの場合 ―」
将来的研究分野 災害対策基本法と戦後日本の災害対策行政の研究 / 地震と行政 ―防災行政の研究 ―
担当の授業科目 「行政学」、「政治・経済と人間の尊厳」、「現代国家論」、「総合政策プロジェクト研究」

行政の歴史をひもときつつ、今日的課題を考える

わたしは、戦後日本の災害対策行政の研究を進めていこうと考えています。具体的なテーマのひとつは、災害対策行政の歴史の研究で、もうひとつは災害対策行政が直面している今日的課題の研究です。それぞれを具体的に示すと、災害対策行政の歴史の研究というのは、災害対策基本法の制定過程を中心とする戦後日本の災害対策の研究、今日的課題の研究というのは、地震と行政 ―防災行政の研究 ―です。

ここ十年ほどをとってみても、1991年の雲仙普賢岳の噴火、1995年の兵庫県南部地震、そして2000年6月の三宅島噴火と、わたしたちの社会は、たびたび大規模な地震や火山噴火に出遭ってきました。出遭ってきただけではなく、東海地震や東南海地震の発生が懸念されていることからもわかるように、これからも出遭うであろうことはほぼ確実です。そして、1995年の兵庫県南部地震の記憶をたどるまでもなく、大規模地震や火山噴火は、莫大な人的・物的被害をもたらし、社会や、行政に、大きな影響を及ぼします。わたしたちひとりひとりは、そしてわたしたちの社会は、大きな災害をもたらすことが懸念される自然現象とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。それらの自然現象が引き起こす災害を可能な限り減らすにはどうすればよいのでしょうか。行政はそれにどうかかわるべきなのでしょうか。わたしは、将来的研究分野として、地震・火山噴火と行政というテーマをとりあげ、上に書いたような問いに取り組んでいきたいと考えています。自然科学者が発する理学的・科学的な情報・知見は、どのようなルートで、どのように選択されて政策化されるのか。政策化に当たって作用するその他の力は何だろうか。政党や官僚制はどう動くのだろうかなど、この問題に関わって検討すべきことがらは数多くあります。

地震学者の石橋克彦さんは、その著書『大地動乱の時代』の中で、次のように書いています。「関東・東海地方の大地震発生様式にもとづく一つのシナリオによれば、今世紀末から来世紀初めごろに小田原地震、東海地震、首都圏直下地震が続発し、それ以後首都圏直下が大地震活動期に入る公算が強い。これらの地震による首都圏とその周辺の震災は、最悪の場合、従来とは質的に異なる様相を呈し、日本と世界に重大な影響を及ぼすだろう。そのような震災とその影響はもはや戦術的な対応では軽減しきれないから、思いきった地方分権による分散型国土の形成に今すぐ着手すべきである。」戦後日本の高度経済成長とそれに引き続く時代は、首都圏の地震活動静穏期とぴったり重なっていました。その間に、わたしたちの社会は、過密な都市と原子力発電所などの巨大施設を、作ってしまったのです。このように考えると、大規模地震や火山噴火が行政に突きつけている課題は重く、またそれが行政のあり方、質を問い直してもいることが理解されるでしょう。