南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

和田 武士

職名 准教授
専攻分野 英米法
主要著書・論文 「規制の相互補完―英国競争法協働制度における競争法と事業法の関係―」
比較法学59巻2号(2025年)1頁
将来的研究分野 英米法における公法と私法の関係、
英国最高裁判所 (UKSC)・枢密院司法委員会 (JCPC) の制度・判例研究
担当の授業科目 英米法(法学部)、法学A(共通教育科目)、英米法特論(法学研究科)

法を学んだ私は失業する?―正解の陳腐化と法学の進化

 「2040年、私は失業する?」―1991年、ある法学者はこのような懐疑的な問いをエッセイの末尾に書き残した。欧州の統合が進めば、イギリス法(イングランド法)が独自の論理を失い、現行法から単なる歴史(法制史)へと移行していくかもしれないという、数十年後の未来を視野に入れた思考実験である(*1)。

 かつて学者が仮説として語った知識の陳腐化は、AI研究・開発の急激な進展を目撃している現代の若者にとって、もはや完全に現実の恐怖として重なるはずである。

 もしも法学が法律に示されたルールを丸暗記するだけの学問であるならば、すぐに時代遅れになる知識を学ぶ意味はない。現存するルールが歴史と化す運命にあるなら、なぜ大学で法学を、それもわざわざ海を越えた他国の法(外国法)まで研究する必要があるのか。

 その答えは、法が暗記すべき静的な知識に決してなく、時代とともに変容する動的なものだということにある。

 実際、1991年の懐疑的なシナリオに反し、イギリス法は死ななかった。それどころか、2009年には最高裁判所を新設し、審理の様子をYouTubeを通じて全世界へ配信している。法廷では、傍聴人がリラックスした態勢で議論に耳を傾けるという、圧倒的な透明性と現代性を示しているのである(*2)。

 なぜイギリス法は生き残ることができたのか。それは、過去の判例を尊重するという伝統を守りつつも、現代の課題に合わせて論理を組み替え、絶えず自らを改善してきたからである。外国法の研究とは、他国のルールをひたすら暗記することではない。人々が法をいかに活用して危機を乗り越え、時代に適応してきたかという、法制度の設計とその運営の技術を解明する営みである。

 今ある正解は遠からず陳腐化する。だからこそ、表面的なルールを暗記するのではなく、その背後にある論理を批判的に捉えることが何よりも重要となる。

 予測不能な課題に直面したとき、過去の枠組みから説得力ある新たな結論を導き出す思考の技法が拠り所となるだろう。この技法を獲得するために、法学の世界へ飛び込んでほしい。

 

*1)紙谷雅子「私は失業する?」時法1415号(19914頁以下。これは、1991年に刊行された雑誌『時の法令』の141545ページに掲載され、現在では国立国会図書館デジタルコレクションにて全文を閲覧することができるエッセイである。https://dl.ndl.go.jp/pid/2785007/1/4

 

(*2)UKSupremeCourt チャンネルにおいて、英国最高裁判所 (UKSC) と枢密院司法委員会 (JCPC) における審理と判決の要約が配信されている。 https://www.youtube.com/@UKSupremeCourt