南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

實原 隆志

職名 教授
専攻分野 憲法学
主要著書・論文 単著『情報自己決定権と制約法理』(信山社 2019年12月)、単著「ツイッター記事削除請求事件」『令和4年度 重要判例解説』(有斐閣、2023年)12頁以下、ほか。
将来的研究分野 比較憲法学、情報法学、法曹実務
担当の授業科目 憲法(人権、統治、憲法訴訟)、憲法基礎研究、情報法特論、憲法演習、プログレッシブ演習、外書購読(ドイツ語)

憲法の意義、憲法学を学ぶ意義

 憲法や情報法に関する授業を担当しています。法学部では主に法律に基づくルールについて様々なことを学びますが、憲法は最高法規なので、憲法に違反する法律(ルール)は無効です。ルールを作る権利があれば世の中を思うようにできそうでもありますが、国がルールを作ったり使ったりするのにもルールがあり、そのようなルールを憲法が定めていることになります。法自体、個人だけでなく国家が守るべきルールも決めているものですし、憲法はルールを作る人も縛るものなのです。憲法と「法の支配」の関連性は強く、権力をもっている人も憲法・法に「支配」されているという考え方は、憲法学でもとても重要です。要するに、自分よりも「偉い」人も、いろいろなルールに縛られているはずなのです。

 私の研究においては、ドイツの憲法や議論も対象にしています。もちろん、ドイツの憲法や法律を日本国内で使うということではないのですが、どのようなルールを作り、それをどのように扱うかを考えるときに、他の国がやっていることが参考になることがあります。また、どの国でも人が考えたり嫌がったりすることは似ていたりもします。国家権力の暴走を嫌がる国は多く、国家権力を上手に動かし、上手に止め、上手に軌道修正するというところでは、どの国もそれぞれなりに試行錯誤を繰り返しています。外国のことをもち出すと「日本は日本だから」という反応が返ってくることもありますが、外国の憲法のことを調べることは必要だと思いますし、こういう点で面白いとも思っています。

 そのなかでも、最近は個人情報の保護に関係する権利を扱うことが多いです。特に、国家が個人情報を勝手に収集・分析でき、それによって私たちの情報がすべて国家に握られていると心配する場合に起こる問題について検討しています。常に自分に向けられている視線を感じている状況では、私たちはのびのびとは暮らせません。また、国家が国家にとって好ましくない人物を探し出そうとし、そのなかで自身のたくさんの情報が密かに集められて、勝手に分析されているのではないかという疑いが生まれることも問題です。そうなってしまうと、国家のあり方について自由に考え、問題提起し、現在起こっていることを世間に気づかせることもできなくなってしまうからです。個人情報の保護は一見すると大して重要なことではないようにも感じられるかもしれませんし、自分の個人情報を国家が好き勝手に集めていたところで特に困ることはないと思われるかもしれません。しかし、どのような権利・自由であっても、それが十分に保護されなければ、個人が自由でいられなくなるばかりか、国家の運営上の問題を指摘して、それを多くの人で共有することで、国家を適切に運用するということもできなくなってしまいます。これは、たかが自分の個人情報の処理の問題として、見過ごせることではありません。ドイツのように、国家が個人を監視する社会になってしまった経験があり、また、再びそうならないようにしている国があることを考えても、これは大変な事態なのです。

 このように私は、法学や憲法学からは、偉い人だからといって何をしてもよいわけではないことが分かると思っており、憲法のことを外国のことを参考にしながら考え、特に個人情報の保護がもつ重要性に関心をもっています。憲法上の権利がしっかりと保障されることは、個人にとっても社会にとっても欠かせません。これは、皆さん一人一人が法学や憲法学を学ぶことが、個人個人だけでなく社会全体にとっても意味があるということでもあります。私たちが憲法学を学んだ先には、誰もが暮らしやすく、安定的でありながらも柔軟性のある社会が待っているはずです。