南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

橋本 広大

職名 准教授
専攻分野 刑法
主要著書・論文 ・「イギリスにおける制定法上の共謀罪の検討」法学政治学論究114号(2017年)95頁以下
・『国際組織犯罪対策における刑事規制』(慶應義塾大学出版会、2022年秋予定)
将来的研究分野 マネー・ローンダリングの刑事規制
担当の授業科目 刑法総論、ベーシック/ミドル/アドバンスト演習、外書講読(英語)

「悪い」行為と刑罰 ―唯一の正解のない問題を検討するということ―

 みなさんは、犯罪とはどのような行為であり、それに対してどのような刑罰が科されるかについて、大まかなイメージを既にお持ちだと思います。たとえば、人の物を盗むと「窃盗罪」という名前の犯罪が成立し、懲役〇年などのように刑罰が科されることになります。ほかにも、「殺人罪」や「器物損壊罪」など、実に多くの犯罪が存在しています。
 しかし、同時に、いわゆる「悪い」行為すべてに刑罰が科されるわけではないこともまた、みなさんはご存知なのではないでしょうか?たとえば、借りたお金を約束通りに返さないことは悪いことであると一般的に考えられていますが、それだけでは犯罪とはならず、したがって、逮捕されたり、刑罰が科されたりすることはありません。このように、「悪い」行為の中から選びだされた一定の行為のみが、犯罪として刑罰の対象となっています。
 もっとも、ここにいう「悪い」行為の範囲それ自体も、時代とともに変化することに注意が必要です。たとえば、コンピュータウィルスを作成してそれをばらまく行為は、今では当然のように「悪い」行為であると考えられ、かつ、犯罪として刑罰の対象となることもあります。しかし、たとえば50年くらいさかのぼるとどうでしょう?その頃は、少なくともコンピュータはまだ一般には普及しておらず、したがってコンピュータウィルスを作成してばらまく行為が「悪い」行為であるという考えもまだ共有されていなかったのです(そのような行為自体が存在していなかったという場合もあるでしょう。)。
 ある行為が「悪い」行為なのかどうか、その行為に刑罰が科されるべきかどうかを考えることは、法学部で学ぶ「刑法」という学問領域において重要な問題の一つです。そして、この問題には唯一の正解がありません。
 しかし、唯一の正解がないからといって、私たちはこの問題への回答の検討を放棄することはできません。なぜなら、実際に「悪い」行為が起きてしまった場合には、刑罰をもって、その行為を行った者に反省を促したり、また、その行為が禁止された行為であることを一般に示すことで、その更なる発生を防止したりする必要があるからです。ここまでお読みになったみなさんは既にお気づきだと思いますが、この問題を検討するうえで真に重要であるのは、刑罰の意義とはどのようなものか、という点です。
 刑法に限らず、法学部で学習する内容は、唯一の正解のない問題について、その時点で最良の回答を検討する試みにほかなりません。そして、このような試みは、法学部の学問領域における問題のみならず、みなさんがこの先生活していくうえで直面する様々な問題についても、行なっていかなければならないものです。そのための訓練として、大学で法学を学ぶことは必ず有意義なものとなるはずです。