南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

河合 正雄

職名 准教授
専攻分野 憲法学
主要著書・論文 「もし警察に捕まってしまったら―刑事事件で保障される権利」『教職課程のための憲法入門(第2版)』所収(弘文堂、2019年、共著)。
「絶対的無期刑は非人道的な刑罰か―ヨーロッパ人権条約3条の視点から」『戸波江二先生古稀記念 憲法学の創造的展開 下巻』所収(信山社、2017年、共著)。
将来的研究分野 国際人権法の視点を採り入れた受刑者の権利保障のあり方
担当の授業科目 憲法入門、日本国憲法 など

受刑者の社会復帰処遇について

日本の受刑者と刑務所の特徴

日本の刑事施設(刑務所や拘置所などの総称)には、2019年末の時点で、判決が確定していない人や罰金を払えずに収容されている人などを含めて48,429人が入っています。人口10万人あたりに換算すると約38人であり、世界的には少ない部類に入ります。法務省が毎年出している「矯正統計年報」によると、2019年中に服役を開始した受刑者のうち、犯行時に無職であった人が約68%、一般に知的障がいがあるとされる指標であるIQが69以下の人が約20%を占めています。

日本の刑務所では、受刑者の行動を細かく管理しています。厳しさの程度は刑務所によって異なりますが、刑務官に口答えをしてはならない、決められた時間以外は居室で横になってはならないなどの細かい決まりを作り、違反が見つかると懲罰を科され、仮釈放が遅くなったり認められなくなる可能性が高まります。そして、刑務官の指示に逆らわず、規則に黙って従う受刑者が高く評価される傾向にあります。現実の社会で自立して生活していくためにはある程度主体的であることが求められますが、刑務所では、規則を超えて積極的に行動しようとすることは、必ずしも高く評価されるとは限りません。これは当たり前のように思われるかも知れませんが、これでは、長く刑務所にいればいるほどロボット人間化し、上手く社会に適応できなくなってしまいます。

社会復帰処遇から受刑者処遇を考える

受刑者の大半はいずれは社会に戻っていくため、刑務所では、受刑者が少なくとも再犯をしないで生活できるように働きかけること(社会復帰処遇)を、重要な目標としています。具体的には、改善指導(社会生活を送るために必要な知識や生活態度の習得を目的とします)や刑務作業、職業訓練などが含まれます。社会復帰処遇を強調する考え方に対しては、受刑者を甘やかしているように感じる人も多いかもしれません。しかし、刑務所に拘束するだけでも厳しい制裁ですし、受刑者が再犯しなければ犯罪も減りますから、社会復帰処遇を効果的に行うことは意味があります。

経済的・社会的に不利な立場に置かれた人が多く収容され、少額の万引きや無銭飲食を繰り返して刑事施設と一般社会を行き来する人が一定数いる現実をふまえると、刑務所の中だけではなく、刑務所を出てからも、犯罪を行わずに生活できるように支援できる仕組みも重要になってきます。そこで、近年では、雇用主が刑務所内で面接して受刑者を採用するなどの就労支援をする取り組みや、刑務所に社会福祉士等を配置して福祉的な支援が必要な受刑者を福祉につなぐ仕組みが導入されています。

まとめ

刑務所は犯罪を行った人が入る施設であるため、権利や自由を大幅に制約することは当然だと思うかもしれません。しかし、受刑者にも人権がありますし、経済的・社会的に不利な立場にある人が多いことをふまえると、一定の支援を行い少しでも社会に定着できるような枠組みを作ることが、結果として犯罪の少ない社会を作ることに資すると言えます。