南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

西村 邦行

職名 教授
専攻分野 政治思想史
主要著書・論文 『国際政治学の誕生―E・H・カーと近代の隘路』昭和堂、2012年(単著)
将来的研究分野 政治における曖昧さについての思想史的研究
担当の授業科目 政治思想史A・B

「役に立つこと」を離れて

法学部を志望する動機は様々だと思います。法曹になりたい,公務員試験に有利だ,つぶしがききそう...。

政治思想史は,そうした期待を裏切る学問かもしれません。法律に関する知識があれば,実生活でのトラブルも避けたりできそうです。政治思想史にそうした効用はありません。

政治思想史とは,大まかには哲学の仲間です。では,哲学とは何でしょう。疑問に思ったことを問う営みです。その問いに答えが出たところで何になるのか。そんなことは関係がありません。不思議だから考える。ただそれだけです。

だからこそ,哲学は何でも問います。多くの人が考えようとはしないことも問います。むしろ常識をこそ問います。哲学者ってどうでもいいことばかり考える人ですよね――そう思っている人はだいたい合っています。

実際のところ,哲学が切実に求められる社会は健全ではないでしょう。そうした社会は,何が正しく何が間違っているのかについて,確信が持ちづらい場に違いありません。当たり前だと思っていたものが,ふと,そうではないのかもしれないと感じる。哲学が顔をのぞかせるのはそうしたときです。

ただ,誰もが違和感を覚えない社会も健全ではありません。そこにいるのは同じような価値観の人ばかりでしょう。道を外れる人がいなければ変化もありません。

さて,政治思想史は,主として政治を題材にあれこれと考えます。では,政治とは何でしょう。政治にはとりあえず二人以上の人が必要です。政治という言葉で皆さんが頭に描く活動はどれも,一人ぼっちで行われている様子が想像しづらいと思います。逆に,人が複数いると,政治は始まります。家庭でも友人の輪でも,意図の読みあいがあったり暗黙のルールがあったりするものです。

政治思想史を学べば人と上手く接することができるようになる,といったことはありません。考えすぎてしまって,色々とこじらせる危険すらあります。しかし,人や社会への向き合い方を考えるきっかけになる可能性もあります。

万人に薦められる学問とは言えません。ただ,無駄を恐れない人,大学生のあいだくらい寄り道をしてもいいかなという人であれば,気に留めてもいい分野だとは言えます。興味があって受講してみたけれど思っていたのと違った,他に授業もない時間だから出席してみたら意外と面白かった――そんな風に視界が変わっていくのが,大学での学びでもあります。