南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

菅原 真

職名 教授
専攻分野 憲法
主要著書・論文 「フランスにおける外国人の公務就任権(1)~(3)」『法学』73巻5号・74巻1号・4号(2009~2010年)(単著)、『グローバル化のなかで考える憲法』(弘文堂、2021年)(共編著)、『世界諸地域における社会的課題と制度改革』(三修社、2023年)(共著)、『フランス憲法と社会』(法律文化社、2023年)(共編著)
将来的研究分野 近代国民国家における国籍・市民権の研究、欧州統合下のフランス憲法の変容と国民主権に関する研究、日本国憲法と「多文化共生社会」の実現に関する研究
担当の授業科目 日本国憲法1(共通教育)、憲法入門、人権各論A・B、統治機構、ベーシック演習A~D、ミドル演習A~D、プログレッシブ演習A~D、インターンシップ演習(法学部)A、司法特修演習CIV、大学入門(法学部)、法職研究(以上、法学部法律学科)、人権特論<博前>、前期研究指導Ⅰ~Ⅱ<博前>(以上、法学研究科)、公法事例研究<法務>(法科大学院)

比較憲法の観点から「多文化共生社会」の実現を考える

 現在、我が国では、多文化共生社会の実現が重要課題の一つとして位置づけられています。総務省の「多文化共生の推進に関する研究会報告書」(2006年)によれば、「多文化共生」とは「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義されています。<グローバル化>が進展するとともに、少子化が急速に進む現在、移民の定住化を前提とした議論を行い、国内の法整備を行うことは避けられない課題であると考えられます。そのためにも、先進諸国における移民政策や移民・外国人の人権・市民権論の動向を探究する必要があります。

 私は、特に、日本とフランスにおける「国籍」と「市民権」の問題に焦点をあてて研究をおこなっていますが、国家権力の一元的強化と均質な市民の創出に基づき国民統合を果たすというフランスの国民国家モデルは、移民・外国人の社会統合政策においても「共和主義モデル」を採用し、アングロサクソン諸国の「多文化主義モデル」をエスニック集団のゲットー化であると批判してきました。

 フランスにおける社会統合の「共和主義モデル」は、「フランスの坩堝」(Gérard Noiriel)と表現されることもあります。それは、本来的に人種・宗教・性・階級の違いといった異なる属性をもつ人間(homme situé)がフランス共和主義の理念を通してフランス社会に統合されている状態を意味します。しかし、2005年のパリ郊外暴動事件などによって、移民の現実は「フランスの坩堝」の状況にはないことが誰の目にも明らかになりました。彼らが置かれている環境・条件や学業成績の低さといった教育・労働の問題、都市暴力や非行といった「郊外」問題、原理主義や過激なセクト、テロリズムといった治安の問題、イスラームとライシテ(公的領域における徹底した政教分離)をめぐる宗教の問題や男女平等の問題など、「移民問題」をめぐる問題は山積しています。「共に生きる(vivre ensemble)」社会の構築は、フランスにおいても文字通り困難な課題であり続けています。

 しかし、一番大切なことは、一人ひとりの人間が尊厳ある存在であること、そしてそれを前提とする社会を構築していくべきであるということです。移民・外国人をはじめ、諸個人に保障される「人権」とは何か、また「市民権」とは何か。憲法上保障される「基本権」をめぐる動向はどうなっているのか。フランスやEU構成国の立法動向、国内裁判所やヨーロッパ人権裁判所の判例等を研究することで、日本における「多文化共生社会」の実現へ向けて、少しでも示唆を与えることができればと考えています。

2014年3月、フランス ストラスブールにて