南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

平林 美紀

職名 教授
専攻分野 民法
主要著書・論文 「不真正連帯債務論の再構成」(名大法政論集)
将来的研究分野 多数当事者の債権債務関係
担当の授業科目 「契約法B」、「民法(契約法)」

預金通帳と民法

唐突ですが、あなたは預金通帳を持っていますか?自分名義の通帳を持っているのなら、あなたも立派な「契約当事者」です。銀行にお金を預けるのも契約の一つ。銀行とあなたとの間で締結された「預金契約」に基づいて、通帳やATMで使えるカードを持ち、お金を預け、またお金の引出し(払戻し)をしているのです(お金を借りることもできます)。ただし、その預金通帳を自分で窓口に出向いて作ったという人は案外少ないかもしれません。幼い頃から自分名義の通帳があって、そこにお年玉を親が預金していたケースの方が多いのではないでしょうか。実際、私もわが子名義の通帳を作り、管理しています。

しかし、あなたの親でもない私が、もしもあなた名義の通帳を勝手に作って管理しているとしたら、とても気味が悪いですね。もちろん、そんなことは通常できません。「親が子どもの代わりに預金契約を締結する」ことが可能なのは、民法がそうした権限を親に与えているからです。あるいは、あかの他人である私にできるとしたら、あなた自身に頼まれたからでしょう。この当たり前に聞こえる話は、民法に規定される「代理」というしくみです。南山大学では1年生の授業で学ぶ内容ですので、予習を兼ねて、関連する条文を読んでみましょう。

民法99条1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。

条文中の「意思表示」の意味は法学部に入ってからしっかり勉強することにして、ここでは、あなた(本人)の親(代理人)が銀行に向かって「子どものために預金口座を開設したい!」と述べることと捉えて下さい。銀行が「はい、開設しましょう!」と応じてくれることで、預金契約が締結されます(厳密に言うと、預金口座開設に当たって「1000円でもいいので最初に入金して下さい」などと必ず言われるのは、預金契約が「消費寄託契約」であるためです。これは2年生向けの「契約法B」の授業でお話ししますね)。

そして、親に代理権があることについては、次の条文で認められています(ただし書は省略します)。

民法824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつその財産に関する法律行為についてその子を代表する。

条文中の「代表」という用語は「代理」に置換可能です。「財産に関する法律行為」の例として、ここでは先ほどからお話ししている預金契約を思い浮かべてみて下さい。

2つの条文をふまえて、ここまでの話をまとめてみましょう。代理人である親(やあなたに頼まれた私)と銀行とが互いに意思表示をすることで預金契約が成立します。その結果、預金をめぐる権利や義務は本人であるあなた自身に帰属します。具体的に言えば、銀行に対して、「預金を払い戻してくれ」という権利もあなた自身のものなのです。したがって、もしあなたのお年玉やアルバイト代を貯めている預金通帳から、親があなたのためでない目的でお金を引き出したのなら、大いに怒ってよいことになりますね。

紙面に限りがあるので、ここでは親が代わりに預金契約するしくみの説明だけですが、預金にまつわる民法上の話題は他にもあります(通帳を盗まれて預金を引き出されたらどうなるのでしょう。振込先を間違えてしまったらどうなるのでしょう、等々)。身近な事柄にも民法の話が関連していることを、ぜひ知って下さい。そして、今は未成年者で良くも悪くも親権者の庇護の下にあるあなたも、大学に入る時はすでに18歳を過ぎており、自分自身で意思表示をして契約をする世界に放り込まれることを意識して下さい。ご自身のためにも周りの大切な人のためにも、民法を知っていて損はありません。法学部で一緒に学べたら光栄です。