南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

末道 康之

職名 教授
専攻分野 刑法
主要著書・論文 『フランス刑事法入門』(島岡まな・井上宜裕・末道康之・浦中千佳男・法律文化社・2019)、『フランス刑法の現状と欧州刑法の展望』(成文堂・2012年)、『新基本法コンメンタール刑法』(浅田和茂・井田良編・日本評論社・2012・共著)、『フランス刑法における未遂犯論』(成文堂・1998年)
将来的研究分野 ヨーロッパ刑法の研究、比較刑法理論の研究
担当の授業科目 刑法Ⅰ、刑法事例研究、刑法基礎研究(法科大学院)、刑法各論(法学部)

「罪と罰」の法である刑法を体系的に理解する

刑事法とは「罪と罰」を定めた法律です。ある人が違法な行為により他人に損害を与えれば、その人は法的に責任を問われることになります。法的責任には、損害賠償のような民事責任がありますが、すべての違法行為が犯罪にはなりません。例えば、不倫は離婚の有責事由となりますが、刑法上犯罪ではありません。ある行為が犯罪となれば(他人の財物を盗めば窃盗罪に、人を殺せば殺人罪になります)、刑事責任を問われ、国家により刑罰という制裁が科せられます。刑罰は国家が強制的に個人の生命・自由・財産といった利益を奪うものであり、その意味で、刑罰権の発動は慎重でなければなりません。その意味でも、刑法の適用は最後の手段として慎重でなければならないことになります。犯罪の原因や犯罪対策を議論することも広い意味での刑事法の分野(犯罪学、刑事政策学)に入りますが、狭義の刑法学は刑罰法規を対象とする法解釈学であり、法を解釈することがここでは重要な課題となります。刑法学は刑法総論と各論に区別されます。総論では、犯罪と刑罰の基礎理論、犯罪の一般的成立要件、全ての犯罪に共通する理論、刑罰の種類と適用などを対象とするのに対して、各論では、個々の犯罪を規定した各刑罰法規の解釈が中心となります。

刑法総論の中心課題は犯罪の成立要件を論ずる犯罪論です。犯罪とは、構成要件に該当して違法で有責な行為と一般に定義されます。ある行為が、構成要件該当性、違法性、有責性の三要件を充たせば犯罪となり、充たさなければ犯罪とはならないわけで、いかなる場合に要件を充たすのかを検討することが重要となります。まず、どのような行為が刑法上処罰の対象となるのかを予め決めておく必要があります。どのような行為が処罰され、どのような刑罰が科せられるのかが予め決定されることによって、国民の行動の自由が保障されることになります。刑法は予め犯罪として処罰する違法な行為を類型化して定めているわけで、それを構成要件といい、構成要件に該当すれば、原則的には違法な行為ということができます。しかし、例えば、人を殺したとしても、もし自分の身を守るために殺してしまった場合、正当防衛となり殺人行為の違法性が阻却され、殺人行為は正当化されます。従って、殺人罪で処罰されることはありません。また、人を殺した犯人が人を殺すことが悪いことだと認識できないような精神的に障害のある人であれば、違法行為を行ってもその人に責任を問うことはできず、従って、その人を処罰することはできません。このように、犯罪成立要件を一定の抽象的な理論として定めておくことにより、どのような事例にも同じように適用できることになります。その場その場で場当たり的に問題を解決するのではなく、普遍的な解決の理論を提示することは、国民の自由を保障するという点で非常に重要となるのです。従来の刑法理論はどちらかというと犯罪者の権利を尊重するという点に重点を置いていましたが、最近では、被害者の権利を刑事司法の場面でも重視すべきであるとの考えが一般的になりつつあります。従って、犯罪者の権利と被害者の権利の調和を図った刑法理論の構築が今後の課題となりうると思われます。

犯罪論はかなり抽象的な議論をする学問であり、難しい学問であることも事実ですが、体系的な思考はある意味重要であり、体系的な思考を踏まえたうえで、具体的問題の解決が図られるべきであります。刑法総論では、体系的思考の重要性、面白さを味わってもらいたいと思っています。