南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

榊原 秀訓

職名 教授
専攻分野 行政法
主要著書・論文 『地方自治の危機と法-ポピュリズム・行政民間化・地方分権改革の脅威』(単著、自治体研究社、2016年)、『司法の独立性とアカウンタビリティ-イギリス司法制度の転換』(単著、日本評論社、2016年)、『住民参加のシステム改革』(共著、日本評論社、2003年)、『アクチュアル行政法(第3版)』(共著、法律文化社、2020年)、『現代行政法の基礎理論(現代行政法講座第1巻)』(共著、日本評論社、2016年)
将来的研究分野 行政司法関係、情報公開と参加、自治体経営と行政法
担当の授業科目 行公法事例研究(法科大学院)、行政法総論(基礎)、
行政法総論(応用)、行政救済法(基礎)、行政救済法(応用)、
行政法各論(法学部、いずれもローテーション)

情報公開制度

Q 「情報公開の請求をしても、『行政文書』が『不存在』の場合、文書が存在しないのだから、裁判で争っても、文書が公開されることはない」という考えは正しいか。

「ないものはない」ので、公開されないと考えるかもしれない。ちょっと疑り深い者であれば、ないといっていても、国や自治体が実際には文書を隠していることもある。よく探したら見つかったと言って、なかったはずのものが出てくることもあるので、文書が公開されることもあるはずだと考えるかもしれない。その通りであるが、裁判で争うとなると、通常のイメージとは異なり、情報公開法や条例において、行政文書や不存在がどのように考えられているかが問題になる。情報公開制度のやや一般的な説明からみていこう。

A 1 情報公開(情報開示)の仕組み

情報公開制度は、行政の組織や活動を民主的に統制し、知る権利を保障するための制度である。情報「公開」と呼んでいるが、制度の中心は、例えば国民Aがある情報をみたいと思って行政組織に請求をした場合に、国民Aがその情報を閲覧できる仕組みにある(コピー代を払えばコピー入手もできる)。「公開」と呼ぶには大袈裟なので、「開示」といった言葉が使われることも多い。情報公開法や条例ができたので、閲覧できるはずなのにできない場合は、最後は裁判で争うことも可能である。

2 物理的には存在するが、法的には存在しない「行政文書」

情報公開法をみると、国民Aが請求をして閲覧できる情報は「行政文書」と呼ばれている。そして、この「行政文書」は「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録......であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるもの」とされている(2条2項)。ここで定義された文書に当てはまれば「行政文書」になるが、当てはまらなければ「行政文書」ではないことになる。例えば、職員が全く個人的に利用し、組織的に用いていない文書は、「個人メモ」などと呼ばれ、「行政文書」ではないことになっている。そこで、国民Aが閲覧しようと思っても、「行政文書」ではないので、閲覧できないことになる。つまり、物理的には何か文書が「存在」するものの、法的には「行政文書」は「不存在」といったことになる。

3 「不存在」の「行政文書」も公開される可能性がある

「行政文書」が「不存在」とされた場合に、裁判で争ったときにどうなるか考えてみよう。まず、文書が物理的に本当に存在していないので「不存在」という場合、文書がない以上、公開されることはない。新しく作成すればよいとも考えられるが、情報公開法や条例はそこまで要求していない(ごく一部の条例には例外的扱いが規定されている)。次に、例えば、職員の「個人メモ」のみが存在する場合は、上記で説明したように「行政文書」ではないので、法的には「不存在」とされる。しかし、裁判をして、実際の使われ方を検討してみると、「個人メモ」とされたものが、実は他の職員も使っていて、組織的に用いているとされ、「行政文書」と判断される可能性もある。「行政文書」であれば、原則公開されるはずである。つまり、「不存在」であったはずの「行政文書」が裁判で争われて公開される可能性があることになる。これが解答である。

発展問題 法的に取得すべき文書を意図的に取得せず、情報公開の請求に対して「行政文書」が「不存在」とすることは適切か。解答は、模擬授業で、あるいは、入学後の授業で。