南山の先生

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法学部・法律学科/法務研究科

石田 秀博

職名 教授
専攻分野 民事訴訟法
主要著書・論文 「新民事訴訟法における釈明権行使」愛媛法学会雑誌27巻1号
「釈明権行使の限界について」静岡大学法政研究9巻2号
将来的研究分野 民事訴訟における裁判官の能動性とその限界
担当の授業科目 「民事執行法」

絵にかいた餅は食べれるか

皆さんも、「絵に描いた餅」ということわざはよく耳にされると思います。その意味は、いくらおいしそうなお餅でも、絵に描いてあるものは食べられない、つまり、どんなに素晴らしい・優れたものでも、それが現実に実現しなければ役に立たないという意味ですね。このことわざは、私の専門としている民事訴訟法という分野を理解してもらうためのキーワードの一つです。

法律の分類にはいろいろありますが、その中の一つに実体法と手続法という分類があります。実体法というのは、どのような場合に、誰にどのような権利・義務があるかという、権利義務の実体について定めた法のことを指します。つまり、「実体法のレベル」=権利があるかないかのレベルということになります。法律でいうと、民法や刑法等が代表的なものです。ところが、法律を使うには、「実体法」だけでは、まさに「絵に描いた餅」の状態です。たとえば、あなたが、Aさんに対して、100万円を貸したけれども、期限が来ても、Aさんが返してくれない、という状態を考えてみてください。「実体法」、この場合は、民法という法律の587条に定める、「金銭消費貸借契約」をあなたとAさんが結んだことになるので、実体法のレベルでは、返済期限が来れば、当然100万円を返してもらう権利=餅があなたにあることになります。しかし、Aさんが、「借りていない」、「今お金がない」、「もう返した」といった理由で、自発的に払ってくれなければ、あなたの100万円は、まさに「絵に描いた餅」になってしまいます。

こういう場合に必要なのが、手続法と呼ばれる法律の分野です。実体法で定められた権利・義務を実現する手続を定めた法のことを、手続法といいます。つまり、「手続法のレベル」とは、権利を実現していくための手続のレベルの問題だといえます。上の例で考えますと、Aさんが借りたお金を返さない場合に、貸主であるあなたが、いかにして貸金の返還を求める権利を法律的実現するか、を問題にするのが手続法なのです。具体的には、裁判をする、調停を申し立てる、などいくつかの手段が考えられます。いずれにしても、手続法による手段を通して、はじめて あなたは、100万円の貸金(絵にかいた餅)を返してもらう(食べること)ができるわけです。私の専攻分野の民事訴訟法とは、今、上で述べた手続法という分野に属するものです。実体法と手続法とがあいまって初めて人々の権利は実現されるということがお分かりいただけたでしょうか。

そして、手続法に求められるものも、想像がつかれると思います。権利が実現されるには、なるだけ、早くしかも費用が安いことが求められます。100万円の貸金を返してもらうのに、10年もかかったり、費用が50万円も60万円もかかるのでは意味がありません。また、実現されるプロセスが、公平であり、その判断も正しいことが望まれることも言うまでもありません。Aさんだけの言い分を聞いて判断したり、あるいは、本当は返してもらっていないのに、返したという判断がされるのでは、意味がありません。民事訴訟では、このように、「迅速」、「訴訟経済」、「公平」、「適正」の4つの理念が求められますが、現実にはなかなかうまくいきません。法律の勉強とは、何やら難しい、頭が痛いと思わずに、具体的な問題を通して勉強して行きたいと思っています。みなさんも、一緒に、学び、論理的な思考、バランスのとれた考察方法を身につけましょう。