南山の先生

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人文学部・心理人間学科

藤岡 慧

職名 講師
専攻分野 心理計量学
主要著書・論文 「社会的望ましさを考慮した項目反応モデルによるパラメタ推定法の提案」,単著,『心理学研究』
『心理学・社会科学研究のための調査系論文で学ぶR入門』,共著(東京図書)
将来的研究分野 社会的望ましさを考慮した適合型テストの開発
担当の授業科目 心理調査法Ⅰ・Ⅱ,心理学測定法(心理学研究法),心理学統計法

数値で心を捉える

 心理学は,態度やパーソナリティといった目に見えない「こころ」を研究対象とする学問です。心理学には,社会心理学や教育心理学といった様々な分野がありますが,なかでも私が専門とする心理計量学は,「こころ」をどのように捉えるか,すなわちどのように数値化するかを考える分野です。今回は,この「こころ」の捉え方について少し考えたいと思います。

 例えば,絶対に遅刻しないAさんと,毎回遅刻するBさんがいたとしましょう。このとき,みなさんはAさんとBさんの性格をどう感じるでしょうか。おそらく,「Aさんは真面目そうだな」,「Bさんはあまり真面目ではなさそう」といった印象をもつのではないでしょうか。このように,「遅刻する・しない」という目に見える行動の背景に,「真面目さ」といった心の性質があると考えます。これが,心理学の基本的な考え方のひとつです。もちろん,実際には,遅刻には様々な理由があります。例えば,体調不良や交通機関の乱れ等も考えられるので,「遅刻=不真面目」と安易に考えてはいけません。

 次に,「真面目さの程度」について考えてみましょう。AさんとBさんに加えて,ときどき遅刻するCさんがいたとします。この3人を真面目な順に並べるとしたらどうでしょうか。多くの人は,Aさん(遅刻しない)→Cさん(ときどき)→Bさん(毎回)の順にすると思います。このように,心理学では,心の性質が「ある・ない」だけでなく,「どのぐらいあるか」を考えることも重要になります。

 では,どのようにその「程度」を表せばよいのでしょうか。心理学の研究では,質問紙法(アンケートのことです)と呼ばれる方法がよく使われます。例えば,「私は真面目な方だと思う」という質問に対して,「1.あてはまらない」「2.どちらともいえない」「3.あてはまる」といった選択肢を用意し,回答者に自分に近いものを選んでもらいます。それぞれの選択肢に点数(例えば1〜3点)をつけることで,心の性質を数値として捉えることができます。この方法で,Aさんが「3.あてはまる」,Bさんが「1.あてはまらない」,Cさんが「2.どちらともいえない」を選んだとすると,Aさんは3点,Bさんは1点,Cさんは2点のように,真面目さの程度を数値で表すことができます。

 しかし,質問の仕方によって,同じ人でも答えが変化するときがあります。例えば,質問を「私はとても真面目である」に変えてみるとどうなるでしょうか。AさんとBさんは先ほどと同じように「3.あてはまる」「1.あてはまらない」と回答するかもしれませんが,ときどき遅刻するCさんは自信がなくなって「1.あてはまらない」を選ぶかもしれません。このように,最初の質問では,真面目さの程度が「A>C>B」だったのが,後の質問にすると「A>B=C」となってしまう可能性があります。つまり,「こころ」を数値化するときは,その方法で本当に正しく測れているかをよく考える必要があるのです。心理計量学では,数値化の方法が正確かどうか,どのような測り方がよいのかを研究しています。

 今回は心理計量学の基本的な考え方を紹介してみました。心理計量学の考え方は,心理学の様々な分野だけでなく,医療や教育,マーケティングなどの多くの分野でも活用されています。例えば,商品に対する好みを調べたりする際にも「こころ」を数値から捉えることがあります。また,最近ではデータサイエンスが注目されていますが,心理計量学は「こころ」を対象にしたデータサイエンスともいえるでしょう。