南山の先生

学部別インデックス

人文学部・心理人間学科

中野 有美

職名 教授
専攻分野 臨床精神医学 精神療法 認知行動療法 
主要著書・論文 認知療法(精神療法の理論と技法の発展と時代精神の変化)2012年
こころのスキルアップ教育が新入生に及ぼす影響 ―Q-Uを用いた中学校での探索的研究― 2020年
将来的研究分野 口腔領域の慢性かつ過剰な痛み・違和感を持つ者のQOL向上のための心理的介入方法
実行機能向上を目指したストレスマネジメント学習内容の構築
担当の授業科目 精神医学概説 (精神疾患とその治療)  臨床心理学研究

メンタルヘルス維持・増進の第一歩とは?

 「今日は疲れた!消耗した!」最近このような日はありましたか?"消耗した"というのは、自分の中に蓄えてあった"活動のためのエネルギーを使った"ということです。それではどのような時にエネルギーを消耗するのでしょうか。例えば、からだをたくさん動かせばエネルギーは消耗しますね。急に重いものを運ばなければいけないことになれば、筋肉が疲労しその日は普段にまして消耗することになります。長時間パソコンで作業をすれば目が疲れたり肩が凝ったりしてきますよね。そして、私たちは、筋肉痛、目の疲れ、体全体のだるさなどから自分が疲れていることを知ります。自分を立て直すためにストレッチを丹念に行ったりゆっくり入浴したり早めに寝る、といった工夫をすることも少なくないでしょう。

 実は"こころ(精神面)"についても、同じことが言えます。こころをたくさんつかえばエネルギーは消耗します。では、こころを消耗したことをどうやって知ることができるのでしょうか。その有力な手掛かりは「情動」です。「気分」「感情」と表現した方が分かりやすい人もいるかもしれません。そわそわする、もやもやする、いらいらする・・・。がっかりした、なんだか心配、とても腹が立つ、などさらにはっきりと自覚される場合もあります。そのようなマイナスの情動の動きを目安に自分の消耗度を推し量ることができます。強い情動が生じた日は、それだけ疲れていますから休息を取るようにしましょう。さらには、マイナスの情動は、自分自身にとって"よからぬ"ことが生じているかもしれないというサインになりますので、その情動が生じたきっかけを振り返り、対応することが大切になることもよくあります。例えば、強い不安のきっかけが3日後の試験にあるとわかれば、試験勉強に力を入れる、といったようにです。

 情動は動物にも発生すると言われていますが、それを自覚できるのは人間だけの能力であるとされています。たしかに、生まれたばかりの赤ちゃんはよく泣きますが、自分が不愉快で泣いていること自体を自覚していないでしょう。ところが、成長するにしたがってそれができるようになります。

 しかしながら、目を向ける習慣がなければ、情動は素通りしていきますし、あるいは情動に巻き込まれるばかりで、気づくことができないのです。自分の中に生じる情動は人間にとって大事な機能であることを自覚し、情動から目を背けない習慣作りをすることが、実はメンタルヘルスを維持増進する第一歩になるのです。

 私は、健康な人のメンタルヘルス維持・増進から、精神症状が出ている人への支援まで、いわゆるカンセリング(心理療法)を専門にする精神科医です。心理人間学科の所属する教員ですが保健センターの仕事を多くしています。私の授業や保健センターでのイベント、グループディスカッション、個別面談などを通じて、このような生活態度を身に着けるきっかけを是非作ってみてください。