南山の先生

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人文学部・心理人間学科

藤田 知加子

職名 准教授
専攻分野 実験心理学・認知心理学
主要著書・論文 「単語表記の親近性が語構成文字の認知に及ぼす影響」, 共著, 『基礎心理学研究』
「読み書き困難を示す児童の現状とその支援」, 共著,『脳21』
担当の授業科目 「知識・言語と情報社会(こころとは)」,「心理学実験」他

「らしさ」とは何か

私の専門は,実験心理学,認知心理学です。

「認知」という言葉は,あまり心理学の一分野を示す言葉として一般的ではないらしく(皆さん,心理学と聞くと,臨床心理学を思い浮かべるようです...),「認知??」と聞き返されることがかなり多くあります。あろうことか,「あぁ,認知ね...。"そういう時"って大変だものねぇ...」と複雑な表情で返されたことさえあります。よくよく聞いてみると「子どもを認知する」という文脈の「認知」だと思われていたことが判り,脱力したという経験もあります。もちろん,そのような限局的な場面での心理を研究しているわけではありません。

「認知」とは,知覚(見ること,聴くこと等),記憶,思考,言語理解,意思決定など,ヒトの心的機能の中でも"知的"といわれる側面を指します。私は,中でも,単語をみてその意味や読み方が即座に判るのはなぜか,頭の中にはその語に関するどのような情報が,どのように保持されているのかなど人間の言語情報処理過程について,青年や児童を対象に主に実験的手法を用いて研究しています。

たとえば,図1の字を読めますか?

実は,日本語にはこのような漢字は存在しません(我々の領域では,こういった漢字を擬似漢字と呼んでいます)。したがって,意味も音もありません。しかし,読めといわれたら,多くの人が「ほう?」と戸惑いながらも読むのではないでしょうか。私たちは,知らない漢字の音や意味を推測することができます。なぜでしょう?右側は音,左側は意味を担うと習ったからでしょうか?実は,そのような漢字に関する知識を習う以前の,小学校2年生でも推量で音や意味を理解しようとします(我が家では,であって,まだ実験的に明らかにはしていませんが...)。

では,図2のAとBではどちらが"漢字らしい"と思いますか?これらはどちらも擬似漢字です。

大学生を対象に行った調査では,「A」の擬似漢字の方がより感じらしいと評価されました。しかし,「なぜそう判断するの?」と尋ねられても答えに困るのではないでしょうか?「なぜかは知らない,でもそう思う,そう感じる。」

ここが人の言語情報処理の面白いところなのです。何が決め手となって,音や意味の推測ができるのでしょう?いつからできるようになるのでしょう?なぜ,擬似漢字なのにあるものは漢字らしいと感じ,あるものはニセ漢字だ!と感じるのでしょう?その判断の根拠が必ずあるはずです。この知らず知らずのうちに私たちが行っている「何か」が,私たちの知識の構造(成り立ち)や,知識の利用の仕方(処理過程)を反映しているのです。

こういった事柄は,調査で問うても答えはでません。「知らず知らずのうちに」行っていることだからです。そこで,実験的手法を用いて,「なぜ?」を検討するのです。

私の担当する「心理学実験」という講義では,先人たちが明らかにした様々な心理学的知見を,学生自身が実験者,実験参加者となって追試することを行います。その過程で,実験とは何か,実証的検討とは何かといった,実験心理学の基礎について学びます。一般的に思われているよりも,ずっと緻密で繊細な心理学を味わってもらえればと思っています。