南山の先生

学部別インデックス

人文学部・心理人間学科

解良 優基

職名 准教授
専攻分野 教育心理学
主要著書・論文 「動機づけの葛藤は中学生の学業達成を抑制するか――社会調査データの二次分析から」(パーソナリティ研究、共著、論文)
「ポジティブな課題価値とコストが学習行動に及ぼす影響――交互作用効果に着目して――」(教育心理学研究、共著、論文)
将来的研究分野 児童・生徒の学習動機づけの社会化について
担当の授業科目 教育・学校心理学、教育の方法・技術論4

心理学の視点から教育を科学的に解明する

教育心理学という学問を耳にしたことはありますか。ここでは、私が専門としている教育心理学という学問とはどのような学問なのかを簡単に説明したいと思います。はじめに一言で説明させていただくと、教育心理学では、心理学の立場から教育という事象を理論的・実証的に明らかにし、教育の改善に資することが目指されています。さらりと説明してしまいましたが、先の一文の中で教育心理学の特徴を説明するポイントとしては以下の2点が挙げられます。

まず、「心理学の立場から」という点です。教育という事象を扱う学問は、教育社会学や教育哲学、教育方法学など、他にも数多くあります。その中でも教育心理学は、特に個人の「こころ」(例えば、感情や認知、パーソナリティなど)から人間の行動を理解し、説明するという心理学的な視点を用いて教育事象を分析します。つまり、教育心理学では、教室において教師や子どもたちが何を、どのように考え(感じ)、それぞれ行動しているのかという一連のプロセスを詳細に分析する視点を提供します。このように教育実践において生じる事象のプロセスが明らかになることで、ある実践がなぜ、どのように良い成果に結びつくのかを理解することができます。また、ある実践のどこに問題があるのかを詳細に検討し、改善につなげる介入の糸口を探ることも可能になります。

次に、「理論的・実証的に明らかにする」という点です。教育心理学では、実験や調査、観察などを通して実証的なデータを収集し、検討するという方法論が主に用いられています。このような方法論を用いることで、個人の直感や経験則に頼るのではなく、現実を正確に捉えた実証的なデータをもとにより良い教育について思索を深めています。私たちの直感や経験則は非常に有用なものですが、一方で必ずしも現実を正しく反映していない場合もあります。例えば、子どもたちの勉強に対するやる気やパフォーマンスを高めるために、ご褒美を導入することは効果的でしょうか。素朴に考えると、成果に応じたご褒美を与えた方が子どもとしては嬉しい分、やる気が高まりそうだと思われるかもしれません。しかし、エドワード・デシというアメリカの心理学者が発表した画期的な論文は、報酬(ご褒美)を与えることでむしろ人間のやる気(特に、ある対象への興味や面白さに基づいたやる気)が低下してしまうという現象を実験的な手法によって示しました。このような一連の研究をもとにしながら、デシ先生はその後多くの共同研究者たちと共に人間のやる気について説明する力強い心理学的な理論を構築していきます。こうして発展した自己決定理論は、人間のやる気や心の健康に対して一貫した説明原理を与えると同時に、子どもたちの主体的なやる気を育むことを目指した教育実践をデザインするための有益な指針を示してくれます。

以上のように、教育心理学はより良い教育を考えるうえで理論とデータを武器にして、心理学の視点から多くの示唆を与えてくれる応用的な学問といえます。将来、学校教員を目指す人はもちろんですが、親になって子どもを育てたり、あるいは、仕事で上司となって部下を育てたりするなど、教育というトピックは全ての人にとって生涯関わりの深いものだと思います。これまで受けてきた教育とこれから自分が実践する教育について深く考えるために、教育心理学の学習を通して豊かな視点を獲得することができると考えています。