南山の先生

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人文学部・心理人間学科

林 雅代

職名 准教授
専攻分野 教育史、教育社会学
主要著書・論文 『続・教育言説をどう読むか』(共著、新曜社、2010年)
将来的研究分野 青少年問題の社会史的研究
担当の授業科目 「教育社会史」「青少年問題論」

「子ども」の発明・「教育する家族」の誕生

(1) 講義の内容

今の子どもは昔とは変わった、あるいは昔の親はきちんと子どもをしつけていたが今はだめだ、といった批判がしばしば聞かれます。しかしながら、これらの批判が前提とする純粋無垢な子ども観や、子どもをきちんと教育するのが家族のあるべき姿という考え方は、社会の近代化の過程で生まれてきた比較的新しいものなのです。こうした見方が生まれてきた背景としては、人口変動や産業構造の変化、近代国家の形成と学校教育の確立・普及などの諸変化が挙げられます。この講義は、私たちが「子ども」や「家族」に対して当たり前のように持つイメージや歴史像の再考を迫るものです。

(2) 講義内容の一例

フランスの歴史家であるフィリップ・アリエスが1960年に出版した『<子供>の誕生』(邦訳は1980年、みすず書房)という本は、私たちの自明とする子ども像や家族像が近代社会特有のものであることを明らかにして、世界的に大きな影響を与えました。彼によれば、中世において子どもは「小さな大人」にすぎず、独自な存在としてはみなされていなかったというのです。確かに、中世の絵画を見てみると、子どもは単に大人を小さくした形で描かれており、大人と同じ服装をしていたことが分かります。また、アリエスは、自分に子どもが何人生まれ何人死んだかを正確に知らない親がいたことも示しています。

子どもが「子ども」ではなく「小さな大人」にすぎなかったというのは、日本でも同様でした。実は、アリエスよりも早い時期に、石川謙という研究者がすでにこのことを指摘しています(『我が国における児童観の発達』一古堂書店、1954年)。乳幼児死亡率が高く産業の生産性がまだ低い段階では、自分の身の回りのことがひととおりできるようになる7歳くらいの年齢に無事達した子どもは、もう大人と一緒に働いたり遊んだりしていたわけです。

「小さな大人」でしかなかった子どもが、どのようにして現在のような「子ども」へと変わっていったのでしょうか。子どもや家族についての自明化されたイメージを問い直してみませんか。