南山の先生

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人文学部・日本文化学科

福本 拓

職名 教授
専攻分野 人文地理学,多文化共生論
主要著書・論文 『都市の包容力―セーフティネットシティを構想する―』(共編、法律文化社、2017年)、「在日朝鮮人事業所の空間的分布と集住地区との関連性―1980年代以降の大阪を事例に―」(単著、『経済地理学年報』、2018年)、「人の移動と産業をめぐる歴史的変容」(共著、『移民・ディアスポラ研究7 産業構造の変化と外国人労働者―労働現場の実態と歴史的視点―』、2018年)
将来的研究分野 多文化共生を基軸とする持続可能な地域開発に関する研究、人権概念のボトムアップ的生成と地域労働市場に関する研究、新自由主義下の都市における包摂的空間の機能に関する研究
担当の授業科目 「日本文化学入門」、「日本民俗文化論」、「地域文化論」、「人文地理学」、「日本文化学演習」

対立を乗り越える地域文化

日本の地域文化と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか?おそらく共通のイメージは、地域に固有の、古来のもの、あるいは長く変わらずに受け継がれている文化といったものでしょう。とりわけ、社会の変動が激しい現代という時代にあって、むしろ地域文化の淵源への関心が高まっている部分もありますし、中には「伝統」の存続を危ぶむ声も聞かれます。

しかし、日本の文化の成り立ちを振り返ってみたとき、日本以外の文化が取り入れられ、混淆しながら新たな文化が創出されてきたことに、おそらく反論はないでしょう。身近な料理の場合、たとえば長崎の中華街発祥の「ちゃんぽん」は、もはやチェーン店でも食べられるメニューになりましたし、名古屋で有名な「台湾ラーメン」も、「名古屋めし」として全国的に高い知名度を誇っています。

このような事例は枚挙に暇がありませんが、むしろ重要だと感じるのは、もともとあった文化と新たな文化の出会いが、常に望ましいものではなく、しばしば対立を伴っていたことです。仏教の伝来一つとっても、受け入れの過程で多くの対立がありましたし、その後日本の土着の文化と混淆しながら、日本の文化の中心を成してきました。昨今の日本では、外国人労働者の増加などをきっかけに、文化・社会の変容に否定的な意見も多く出されます。しかし、軋轢や対立の果てに、共生が日本の文化的特徴となる可能性も大いにありうると考えています。

一つ事例を紹介しましょう。大阪市生野区は、戦前から在日コリアンが多く住む地域として知られ、「生野コリアタウン」(写真)があることでも有名です。この特徴的な景観は1990年代に作られたものですが、日本人と在日とが共に暮らしてきた街であっても、当初のコリアタウン構想に対しては多くの反対意見が寄せられるなど、その実現の過程は平坦なものではありませんでした。それが現在、多文化共生のシンボルとしても、多くの来訪者を集める場所になっているのです。対立の段階から、その乗り越えへと至り、特徴的な地域文化が生み出されたといえるでしょう。

しかも、興味深いのは、生野コリアタウンではK-POPの流行に伴い新たなショップが登場するなど、更なる変容を遂げているところです。文化の、固定的ではなく、ダイナミックな本質をご理解いただけると思います。地域文化は、異なる文化との対立を経て、それを乗り越えつつ創られてきました。実は、日本文化の中に、こうした足跡は意外なほど多く見出すことができるのです。対立にたじろぐよりも、その乗り越えの文化を見つめることが、ますます求められているのではないでしょうか。