南山の先生

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人文学部・日本文化学科

岩﨑 典子

職名 教授
専攻分野 応用言語学(日本語教育、第二言語習得研究)
主要著書・論文 The Grammar of Japanese Mimetics: Perspectives from structure, acquisition and translation, (共編、Routledge、2016),『オノマトペの謎 –ピカチュウからモフモフまで−』(共著、岩波書店、2017)、『移動とことば』(共編、くろしお出版、2018)
将来的研究分野 海外から移動(留学生、移民、帰国子女など)、または国内を移動する人々の言語アイデンティティーとマルチリンガルな言語使用

自分らしい日本語を支援する日本語教育

近年、海外から国境を越えて日本に来る人たち(例えば、移民、留学生)、あるいは海外生活を終えて帰ってきた人たちの子どもたち(帰国子女)など、日本で多様な日本語教育の必要性が増してきました。

 しかし、第二言語(幼少期から学んできた母語のほかに学ぶ言語)の学習や教育に関しては様々な誤解や幻想があります。例えば、「留学さえすればうまくなるはずだ」、「言語の学習は早く始めなければならない」、「学習の目標はネイティブスピーカーのように話すことだ」、「母語は使わず、日本語だけ使って学習するべきだ」のように言われることが多いです。けれども、留学してもその人の生活環境によって言語の習得のレベルは様々ですし、言語以外の学びや経験が優先される場合もあります。必ずしも早く学習を始めなくても日本語能力は伸びますし、日本生まれで日本育ちの人たちの中でもことばの使い方は様々で、世代や地域によってもずいぶん違いますから「ネイティブスピーカーのように」といっても一つの規範はない上、二つ以上の言語を知っている人は、これまで習得した言語の総合能力を伸ばしているのです。

 私の研究課題の一つであるオノマトペは、日本語母語話者の中でも使い方が様々で、元来クリエイティブに使うことが歓迎されることばです。「コロコロ」は「コロコロ転がった」のように副詞として使われることが多いですが、ウェブ検索するといろいろな使い方が見受けられます。ですので、第二言語として日本語を学習した韓国語母語話者が「(ボールを飲み込んで丸くなったアニメのネコが)坂をコロコロして行きました」のように表現しても、「間違い」とは言えないと考えています。むしろ、すでに身に付けた言語の語感を活かすことで「豊かな」表現が可能になることがあります。

 このように、第二言語として日本語を学習する人は他の言語をすでに知っった上で日本語を学ぶことで自分の言語資源を豊かにして総合的なことばの力を伸ばしているのです。つまり、すでに持っている知識を生かすことが、次のことばである日本語を学ぶ有効な方法だと考えています。

 また、相手に何かを伝えようとする際、いわゆる規範的なことばがよいとは限りません。私は南山大学に来る前はロンドン大学で英語を使って外国語教育などについて教えていましたが、私が目指していた英語は「正しい」英語というより、世界から集まる学生たちにわかりやすい英語です。

 つまり、どんなことばの力が重要なのかは、それぞれの個人の言語使用の目的によって変わってきます。例えば、日本語で円満な対人関係を築くには、語彙や構文だけではなく、「〜よね」「〜かなと思うんですけど」のような文末表現を使って意見を言ったり、「あの」などをうまく使ってためらいながらお断りしたり、「へー」などの相槌を使っていい聞き手になったりすることが大切になってきます。

 日本語を母語としない日本の生活者が自分の知っているほかのことばにも誇りを持って維持しつつ、自分らしい日本語でコミュニケーションする力を伸ばすことを支援するためにはどんな日本語教育が望ましいのか。海外で日本語を学習する人たちにはどんな支援が望まれるのか。単なる情報伝達を超えた豊かなコミュニケーション力について、そして、その力の習得を支援する方策をみなさんと一緒に考えたいと思います。

 私が、長年欧米で研究してきた成果や、日本や米国での日本語教育の実践経験を活かし、個々の文化的背景や、言語学習、言語使用の目的に沿う日本語教育について考えていきたいと思います。

皆さんも、私と一緒に「ワクワク」「ドキドキ」する「ことば」の研究の世界にのめり込んでみませんか。