南山の先生

学部別インデックス

人文学部・キリスト教学科

RAJCANI,Jakub

職名 准教授
専攻分野 キリスト教倫理、倫理神学、生命倫理、社会倫理
主要著書・論文 “Guardini’s Legacy for a Missionary Church,” The Japan Mission Journal 78/3 (Autumn 2024), pp. 185-199;
Identità e agire morale: Riflessioni sull’esistenza cristiana alla luce del pensiero di Romano Guardini, Aracne: Roma, 2023, 510 p., ISBN 979-12-218-0889-6(改訂版);
“Human Dignity in Catholic Ethical Tradition: What Often Remains Unsaid,” Academia: Journal of the Nanzan Academic Society (Humanities and Natural Sciences) 25 (2023), pp. 131-147;
「最近のバチカンとジェンダー論の関係——ある公文書の背景と分析——」、『南山神学』44(2021)、pp. 139-179;
“La coscienza situata come ‘polo opposto’ della norma morale,” Alpha Omega 22/1 (2019), pp. 103-117.
将来的研究分野 倫理学における幸福論、唯名論、ジェンダー論の研究

人の生き方は色々ありますが、すべてが同じように良いとは限らない

 私の研究は「道徳」を対象にしています。皆さんが高校で取っているかもしれない「倫理」と似ていますが、もっと厳密な、もっと狭い意味で倫理学です。ただの思想史や哲学の基礎ではありません。では、何かと言えば、人間の行動を善悪という視点から評価する学問、ただ分析や描写だけではなく、だいたいの人間はどうであるべきかについて規範を示す学問でもあります。もちろん、それは理想を述べるにとどまるのではなく、多くの現実的な問題と向き合う必要もあります。ですから、人生と関係のある様々な難しい問題を扱わざるを得ませんし、最初から唯一正しい答えは出ませんが、それを各自で探っていくことにこそ意味があると確信しています。今まで人々が出した間違った答えからも学ぶものがあります。最初は色々な情報があって、分からない用語も出てきますが、読書すればするほど視野が広がり、次第に情報の整理ができて、自分独自の観点が見出されることがあります。何かを知るためにはすぐ具体的な事例に飛びつくのではなく、やはり、その文脈や背景を知っておくことも大事です。私たちの思想は何でも天から落ちたものではなく、どこかにルーツを持っているものなのです。ですから、せっかくの大学教育全体もそうですし、それぞれの学部学科も広いカリキュラムを提供しているので、少しずつ様々な領域を齧ってみる価値があると思います。例えば、理系の人も全く文系の学問を無視すると、少し怖く危ない科学観が誕生しかねません。幸せにはただ機能している効率良い生活以上の何かが必要なのです。科学と同様、政治や経済も有益性や技術的な面を考えるものなので、自己自身を正しい方向に導いたり、基準となる価値を自己自身に与えたりするには、まさに倫理的な考察を必要としています。

 すぐに答えが出なくても公共の場で考えなければならない倫理的な問題の中に、例えばヒト胚の位置付けとその取り扱いの道徳性、人工妊娠中絶の可否、臓器の移植、安楽死、死刑などと様々ありますが、主に医療の現場で出会いそうな葛藤やジレンマが多いと思います。これらの生命倫理的な問題は全く各個人の判断だけに委ねられない問題ですから、何らかの制度や指針が必要だと思われます。確かに法律がその役割を果たすのですが、法律も不完全である可能性があり、常に変わりゆくものです。上記の様々な問題は政治的な広がりも持ち、その中で特に今日的な重要性を持っているのはいわゆるジェンダー論だと私は思います。私は最近そのようなテーマに焦点を当てて、研究を行っています。男性と女性の違いは何か、その平等性の根拠は何か、ステレオタイプを超えた然るべき男性性や女性性はあるか、性は人間にとって本質的な属性であるか、生まれ持つ性別を変えることができるか、その性別とは異なる自分のジェンダーを自分で決めて断言できるか・・・、敏感な問いではありますが、少なくとも問うに値する点がたくさんあります。聖書や教導職からヒントを得て、キリスト教的な視点から考察を行っていますが、最終的に理論的な考察ですから人間誰しもその議論を理解し、対話に加わることができるはずです。一人ひとりの人間性を守るために、ただ技術的な可能性、世間の賛否、立法者の許可、個人の望みだけでこのような実存的な問題に答えることはできない。人間の本性をしっかり掴むことが不可欠です。生きる中で必ず何らかの悩みに出会うのですが、困難に直面している人に慰めや励ましはもちろんのこと、真理を伝えることが肝心です。