南山の先生

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人文学部・キリスト教学科

三好 千春

職名 教授
専攻分野 キリスト教史
主要著書・論文 『百年の記憶―イエズス会再来日から一世紀―』(南窓社 2008年 共著)
『死と再生 2009年上智大学神学部夏季神学講習会講演集』(日本キリスト教団出版局 2010年 共著)
『戦時下のキリスト教 宗教団体法をめぐって』(教文館 2015年 共著)ほか
将来的研究分野 非キリスト教圏―特に近代日本―におけるキリスト教の認識・受容・拒絶の問題
担当の授業科目 「宗教論」「キリスト教史」「日本キリスト教史」ほか

その裏には歴史があります

 2025年421日に教皇フランチェスコが亡くなり、5月に新しい教皇を選出するための「コンクラーヴェ」(もともとラテン語のcum clavi「鍵をもって」に由来する言葉です)が行われました。その結果、58日にアメリカ人(ペルー国籍も取得)のロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿が第267代ローマ教皇として選出され、レオ14世という教皇名を名乗ることとなりました。

 初のアメリカ合衆国出身の教皇であることでも注目されているレオ14世は、アウグスチノ会という修道会に所属する修道者でもあります。前任者の教皇フランシスコもイエズス会という修道会に所属していましたが、アウグスチノ会もイエズス会も「キリシタンの世紀」と呼ばれる16世紀後半から17世紀前半の時期に、日本に宣教に来た修道会です。

 ちなみに、17世紀前半のキリシタン迫害時にアウグスチノ会からも殉教者が出ました。そのため、2008年に長崎で行われたアウグスチノ会の殉教者を含む「ペトロ岐部神父と187殉教者」の列福式(信仰生活の模範にふさわしいと認定された人を「福者」という一種の聖人として宣言する儀式)に、当時アウグスチノ会総長であったレオ14世も参加するため来日しています。(来日時はまだ教皇ではありません、念のため。)

 ところで、教皇を選ぶコンクラーヴェ、その音と、投票者である枢機卿たちが新教皇を決定するまで、連日システィナ礼拝堂で秘密投票を行うという内容の連想から、日本では「根比べ」などと冗談に言われていますが、これにはどのような歴史があるか、ご存知でしょうか?

 その原型が出来たのは、1274年の第二リヨン公会議です。それ以前は、教皇選挙に関わっていたのは、枢機卿団だけではありませんでした。一般の信徒も司祭も関わっていた時代があるのです。この教皇選挙がコンクラーヴェという形になっていく過程には、キリスト教の教会組織を理解する大切な鍵があります。

 また、ヴァチカンの衛兵はなぜイタリア人ではなく、スイス人なのでしょう?この謎を追っていけば、スイスの庸兵制度から神聖ローマ帝国皇帝カール五世によるローマ侵略、あるいはスイスの宗教改革者ツヴィングリまで、様々なドラマに出会うことになります。

 そして、ヴァチカン市国。その面積はほぼ東京ディズニーランドと同じという、1929年生まれの世界最小国家が誕生した背景を探っていけば、とても奥深く、興味深い問題が見えてきます。それは、19世紀のイタリア統一やムッソリーニによるファシスト政権から、はては18世紀フランスで『百科全書』がabc順で作られたことの衝撃という問題にまで突き当たることでしょう。(どういうことか知りたい人は、どうぞキリスト教学科にお入りください。)

 歴史を学ぶとは、今ある姿はどうしてそのような姿になったのかを考えることです。そして、過去を見つめ、今を理解しようとするなら、未来を考えることができます。

 あなたという一人の人間が、生まれてから今日までのあらゆる出来事を含みこんで、今、ここに存在しているように、キリスト教も、2000年という長い時の中で起こったこと全てを踏まえて、今、ここに存在しているのです。しかも、キリスト教の歴史が関わる場所は、ヨーロッパに限りません。アジア、アフリカ、両アメリカ大陸、オセアニア、つまり全世界が関わっています。

 こんな面白いことはありませんよ。キリスト教史、いかがですか?