南山の先生

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人文学部・キリスト教学科

松根 伸治

職名 教授
専攻分野 中世哲学史
主要著書・論文 「倦怠と悲しみ─トマス・アクィナスのacediaについて」(単著)
将来的研究分野 徳に関する西洋倫理思想の研究
担当の授業科目 「キリスト教哲学」「哲学・倫理学における人間の尊厳」「ラテン語」ほか

哲学史を学ぶ魅力

哲学の歴史というのは、ごく大ざっぱにまとめると、すぐには答えの出そうにない難しい問いや謎について、できるだけ明確な言葉とごまかしのない論理を使って考えようとしてきた、そういう人類の思考の積み重ねだと言うことができます。

哲学史の研究は見知らぬ土地への旅に似ています。先人たちの残した書物を丁寧に読み、その思考の道すじをたどる作業の楽しさのひとつは、自分とはまるで異なる価値観や思考法にふれる驚きにあります。このような新鮮な驚きはあなたの考え方や感じ方をきっと豊かにしてくれるでしょう。あるいは逆に、はるかに時空をこえた人々にも自分と非常に似かよった問題意識やリアルな苦悩があることも実感できます。そして彼らが様々な問題を解決するために苦労して生み出した言葉と論理は、あなた自身がものを考えるときに信頼できる道具になるはずです。「自分の頭で考えること」や「自分の言葉で主張すること」が重要だと言われることがありますが、私たちはまったくのゼロからものを考えることはできません。批判的な精神をもちながらも、たえず歴史や伝統に学ぶことが大切ではないでしょうか。

私が研究している分野はヨーロッパの「中世」と呼ばれる時代の哲学です。中世という呼び名の誕生は、15世紀頃の人々が、生き方や思想の手本としてギリシャ・ローマの古典文化に強い関心とあこがれをもったことに由来します。自分たちが現に生きている「今の時代」と、理想として見直すべき「昔の時代」──それらをへだてているのが、「あいだの時代、真ん中の時代」つまり「中世」だというわけです。この意味で中世という名称自体はもともと否定的な意味あいをもっていました。

しかしこの時代にも、世界と人間に関する生き生きとした考察のいとなみが途切れずに継続されていたことは間違いありません。中世の人々の生活と思考の中心にあったのはキリスト教でした。ですから、聖書にもとづくキリスト教の信仰と、古代ギリシャ以来の哲学や学問との関係ということが大きな問題になってきます。本来別々のものだったこれら二つの流れが、あるときには反発し葛藤し、あるときには調和し融合しながら、その後の西洋文化の根幹を形づくっていくことになります。当時の思想の背景を学び、著作家たちの文章を実際に読むことで、そういう哲学史の具体的場面にふれることはとてもスリリングな体験です。あなたも一緒に勉強してみませんか。