南山の先生

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人文学部・人類文化学科

原田 昌浩

職名 講師
専攻分野 考古学・文化遺産学
主要著書・論文 『津堂遺跡』(2024年、編著、大阪府教育委員会)
『埴輪生産からみた地域社会の展開』(2023年、共著、六一書房)
『五塚原古墳発掘調査報告』(2019年、編著、立命館大学文学部)
「古墳時代中期の埴輪生産―京都府久津川古墳群の分析事例から―」(2015年、『考古学研究』61-4)
将来的研究分野 日本列島における古代国家形成過程
担当の授業科目 日本史概論、文化史B、人類文化学基礎演習

モノを通して過去の人類と対話し、現代、そして未来へつなぐ―考古学・文化遺産学―

みなさんは、遺跡を訪れたことがありますか。愛知県には約1万2千以上、岐阜県には1万1千以上、三重県には1万4千以上もの遺跡があるのです。みなさんの家の近くの遺跡もぜひ調べてみてください。(遺跡数は、文化庁HP「周知の埋蔵文化財包蔵地(令和43月)」を参照)

私はこのような遺跡やそこから出土した遺構・遺物などのモノを研究対象とする考古学を専門としています。考古学は、過去の人類が遺したさまざまなモノを通して過去の人類と対話をし、その当時のことを知る学問です。

私の考古学との出会いは小学生の時の遠足です。上野原遺跡(鹿児島県)にバスに揺られて到着すると、調査中の縄文時代(約9500年前)の住居跡や土器などを見せてもらいました。そんな大昔に人々がいたということに驚くとともに、住居跡や土器について語る担当者の方のキラキラと輝く目を今でも覚えています。その後も過去の人々の生活・文化に興味を持ち続け、大学・大学院で考古学を専攻しました。学生時代は、多くの遺跡の発掘調査に参加しましたが、ほとんどが現在専門としている古墳の発掘調査でした。古墳とは、古墳時代(3世紀中ごろ~6世紀)に築かれた有力者のお墓です。古墳時代は、古墳づくりに多くのエネルギーがさかれ、古墳やそれにまつわるモノを分析することで、時代の特性や社会の状況等を把握できることがこれまでの研究から明らかにされています。私の研究は、古墳に大量に立てならべられた埴輪がどのような体制でつくられたのかを分析することで、古墳づくりにかかわる労働力編成を復元し、それを徴収した権力がどのような性格のものであったのか、また時期ごとにどう変化していったのかについて考察するというものです。最近は埴輪だけでなく古墳づくり全般について、どれだけの人々が関わっていたかをさまざまな考古学的な証拠から復元しようと、研究を進めています。古墳づくりを主導した有力者がどのように権力を掌握していったのか、その権力を行使した範囲はどこまでかなどについて考察しようと思っています。最終的には白鳳期以降に「日本」と呼ばれる国家がどのように成立してきたかを、考古学的に復元することが、私の研究目的の1つです。

また私は大学院の課程修了後に自治体で考古学専門職員として働き、遺跡などの過去の人類が遺した文化財・文化遺産をまもる仕事をおこなってきました。その仕事の中で、考古学と現代社会の関わり方についても思考をめぐらせることになりました。遺跡の発掘調査を担当したときに、地元向けに成果報告会を開催しました。その遺跡では奈良時代の建物や遺物を検出しました。奈良時代は日本で天然痘が流行したくさんの人が亡くなったことが記録から分かっており、報告会を行った時期(2020年)はちょうど新型コロナウイルス感染症が流行した時期で、人々が未知の感染症に恐怖するという状況が重なっていました。ですので、当時の人々が仏教によって不安を解消しようとしていたことを説明し、当時の人々に思いをはせていただけるような説明を心がけ、好評を得ることができました。

過去の人々が精一杯に生きた痕跡が遺跡などの文化財・文化遺産として遺されています。その研究をすることで過去の人類の英知を知ることができ、現代にいかすこともできるでしょう。そのような過去人類の遺したさまざまなモノをどのようにまもって、現代や未来につないでいけるかということを考えるのが文化遺産学であろうと私は考えています。

過去に人々が一生懸命に生きた証拠である遺跡などの文化財・文化遺産は、冒頭にも書いたとおりみなさんの身近に存在しています。その場所に生きた過去の人類の遺した痕跡は、研究という対話を通して多くのことを語りかけてくれます。

みなさんも、モノを通して過去の人々と対話をしてみませんか。

現代によみがえった志段味大塚古墳(国史跡志段味古墳群:愛知県名古屋市守山区)(撮影:原田昌浩)