南山の先生

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人文学部・人類文化学科

石川 岳彦

職名 教授
専攻分野 中国考古学・東洋史
主要著書・論文 『春秋戦国時代 燕国の考古学』(単著、2017年、雄山閣)
『中国考古学論叢―古代東アジア社会への多角的アプローチ―』(共著、2021年、同成社)『弥生時代人物造形品の研究』(共著、2017年、同成社)
将来的研究分野 中国大陸とその周辺地域の新石器時代から鉄器時代の研究
担当の授業科目 東洋史・東アジア考古学B・人類文化学特殊講義・文献資料講読(中国)

中国の歴史を考古学から解明する

 私の専門は中国考古学です。とくに中国大陸の北半部を中心に、紀元前1000年頃から紀元後3世紀頃(中国の王朝でいえば、西周から後漢の時代にあたります)の研究をしてきました。最近は、もう少し古い時期にも研究対象を拡大し、新石器時代の紀元前6000年頃以降に関する研究も行っています。

 私がなぜこのような研究をするようになったのかを振り返ってみると、理由としてもっとも大きかったのは、東アジアの歴史に興味があったということです。しかし、歴史を研究するといっても研究の方法は様々です。そのなかでなぜ考古学による研究をしようと思ったのかというと、考古学は遺跡や遺物といった物質的根拠をもとに研究する学問であったからでした。中国では殷の時代から文字があり、文字による記録は古い時代から多く残されています。しかし、文字のない時代の文化はもちろん、文字のある時代でも記録には残されていないことについて、考古学の方法を使えば、時代や地域に制限されることなく知ることができるのではないか、そのようなことを考えて大学の学部時代に専門として中国大陸の考古学を選んだのでした。

 その後、大学院在学中にかけて研究したのは、主に中国の春秋戦国時代(紀元前8世紀~紀元前3世紀)に関するテーマでした。研究の対象は、始皇帝によって紀元前3世紀に中国を統一することになる秦国のような有名な国ではなく、燕国という中国中央部でも東北の隅にある辺境の国でした。燕国は、文字による記録がこの時代の他の国々に比べて少ない謎の多い国です。その一方で、位置的に朝鮮半島や日本列島に近いため、これらの地域に与えた影響が大きいと考えられている東アジアの歴史にとって重要な国です。そのため研究対象として、大変に興味深いと感じたのでした。

 このようにして春秋戦国時代の燕国の研究を始め、現地の遺跡(下の写真)に行ったり、中国の研究所や博物館で、遺跡から出土した土器や青銅器、鉄器などの遺物を調査しました。その後、大学院を修了する頃には、研究を始めた時点では知らなかった多くのことがわかってきました。最も大きな収穫は、文字で書かれた記録にはほとんど残されていない、燕国が北方や東方にいた異民族に影響を与え、彼らを自国に吸収していく様子を詳しく知ることができたことです。そして、この燕国の拡大の影響が、当時の中国大陸で最先端の素材だった鉄で作った道具が朝鮮半島や日本列島で使われ始めるきっかけになるにもなっているのです。このように考古学の方法を使うと、すでに文字が使われるようになった時代であっても中国の歴史をより深く、しかも東アジア全体にまで視野を拡大して研究することが可能になります。

 私がこれまで研究してきたのは、地域的にも時代的にも中国の長い歴史のごく一部分に過ぎません。私自身、興味があってもまだ知らない時代や文化がたくさんあります。みなさんもきっと自分の興味をひく研究対象を探し出すことができるはずです。少しでも関心を持った人は是非、中国考古学の研究の扉をたたいてみて下さい。

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(写真:戦国時代後半に燕国の都城だった燕下都遺跡に残る当時の城壁(上)と墓(下))