南山の先生

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人文学部・人類文化学科

渡部 森哉

職名 教授
専攻分野 アンデスの考古学、文化人類学
主要著書・論文 『インカ帝国の成立―先スペイン期アンデスの社会動態と構造』(単著、春風社、2010年)、『Estructura en los Andes Antiguos』(単著、Shumpusha、2013年)、『Dominio provincial en el Imperio inca』(単著、Shumpusha、2015年)、『古代メソアメリカ・アンデス文明への誘い』(共著、風媒社、2011年)
将来的研究分野 アンデスにおける国家社会と非国家社会の比較研究
担当の授業科目 「文化史A」、「人類文化学特殊講義(新大陸の考古学)」、「考古学概論」、「考古学B」など

アンデスの発掘

世界の「四大文明」としばしばいわれます。しかしアメリカ大陸にはそれ以外に文明がおこった地域がもう二つあります。現在のメキシコとその南東部にひろがる中米の「メソアメリカ」地域と、南米ペルーを中心とした「アンデス」地域です。

アメリカ大陸には一万年以上に亘る人類の歴史があります。アジアから渡ってきた人々が各地で独自の文化を生み出し、育てていきました。そして16世紀にスペイン人がやってきた時、アンデス地域ではインカ帝国が勢力を誇っていました。インカとは一体どのような社会であったのかという問題に、世界の多くの研究者が取り組んでいます。私もその中の一人です。その解明のためには、スペイン人が残した記録を分析し、遺跡の発掘調査を行う必要があります。

1995年以来、毎年南米のペルーという国に調査に出かけています。私はいつも標高2500-3500メートルの山地で発掘調査をしています。

自分ではじめて計画立案をして、挑戦したのはタンタリカという遺跡でした(写真)。標高約3200メートルある山の斜面に建築が連なっています。しかし道路が通っていないので、歩いていく必要があります。付近に村はありません。だからロバで生活必需物資を運び込んで、遺跡の麓でみんなでテント生活をしました。水場も近くにないため、毎日地元の農民に運んでもらいました。

発掘調査というと過去の世界を明らかにすることに没頭するというイメージを持つ人がいますが、現在の人間関係の方がはるかに重要です。文化省の役人、遺跡のある土地の地主、一緒に働くペルー人考古学者、そして実際に土を掘る農民など、現地のペルー人と協力関係を築くことができなければ、発掘調査はできません。発掘が終われば、打ち上げでどんちゃん騒ぎをします。酒を勧められれば飲み、音楽がかかれば踊ります。

タンタリカ遺跡。頂上部は標高3289m。中腹部の斜面に建築が連なる。時代は紀元1350-1600年

私が調査を行っているペルー北部では、スペイン系の血の混ざった混血の人々(メスティソ)が殆どで、インディオと呼ばれる先住民はいません。だから生活はラテンのリズムになります。予定通りいくことはまずありません。ラテンアメリカのいい加減なテンポに自分を合わせつつ、これまでなんとか調査の実施にこぎ着けました。現地調査は、遺跡の発掘だけでなく現代のペルー文化の発掘でもあるのです。

アンデスは過去と現在が混在している、行く度に新たな顔を見せる、魅惑的な世界です。まだ知られていない遺跡もたくさんあります。ペルー料理はおいしいし、ラテンの音楽の響きも心地よく、ペルーが好きになる日本人は多いです。

皆さんもアンデスという大きな世界に飛び込んでみませんか?