南山の先生

学部別インデックス

人文学部・人類文化学科

中尾 央

職名 教授
専攻分野 自然哲学
主要著書・論文 Violence in the prehistoric period of Japan: the spatiotemporal pattern of skeletal evidence for violence in the Jomon period. Biology Letters, 12: 20160028.(共著,2016年)
『人間進化の哲学:行動・心・文化』(単著,2015年,名古屋大学出版会)
Ready to learn or ready to teach: A critique to the natural pedagogy theory. Review of Philosophy and Psychology, 5(4): 465-483.(共著,2014年)
The evolution of punishment. Biology & Philosophy, 27 (6), 833-850. (共著,2012年)
将来的研究分野 文化進化史の解明
担当の授業科目 人類文化学基礎論、科学文化論、応用哲学

人間進化を考える

私が今の研究テーマに関わり始めたのは大学の学部3年生頃でした。ですので、(2018年の時点で)すでに15年以上も同じテーマで研究を進めていることになります。学部・大学院を通じ、私は文学研究科の科学哲学・科学史専攻という講座に所属していました。科学哲学・科学史というのは科学(技術)について哲学的・歴史的に考察する分野で、この名前を冠した講座は日本の大学だと数えるほどしかなく、かなりマイナーな分野です。実際、「科学(技術)について哲学的・歴史的に考察する」と言われても、ピンとこない人がほとんどでしょう。だいたい「科学(技術)」といってもものすごくいろいろな分野があります。たとえば物理学、生物学、心理学、社会学、人類学...といった具合ですが、大学ではこうした大きな括りをもっと細かく分けて研究しています。普通の研究者はなんとかという虫の専門家、どこそこの民族の専門家、という紹介されることが多いでしょう。科学哲学・科学史というのは、そんな多様で複雑そうな科学(技術)について、さらに哲学的・歴史的に考察するという、これまたよく分からない紹介のくっついた分野です。なので、いつものことながら説明に困ります。しかももっと困るのは、私のやっていることが、いわゆる科学哲学・科学史の中でもかなりの少数派に属する研究テーマである、という点です。下手をすると、私のやっていることは「哲学」だと思われていないかもしれません。「自然哲学」なんて専攻分野をつけていますが、それも苦し紛れで、自分の研究がどこに属するかとか、自分でもよくわかっていません。でも、最近はそういうことも気にしなくなっています。むしろ気にしないほうが楽しく研究ができるかもしれません。

前置きが長くなりましたが、私はこの10数年、先ほど述べたような講座の出身者であるにもかかわらず、人間の進化について考察を進めています。進化を考察するなんて、普通は人類学者や生物学者、あるいは考古学者の仕事かもしれません。しかし、人間進化の解明という厄介な課題は、どこか単独の分野「だけ」で解明できるものではありません。人類学も生物学も考古学も大事で、関連する分野の知識を総動員しなければ何も分からない、ということが少なくないのです。いつ人間が二足歩行を始めたかは、人間の化石をみれば数多くのヒントが得られるでしょう。では二足歩行によって、人間はどのように進化したのでしょうか。人間は手が自由に使えるようになり、そして道具を使う余裕も増えたでしょう。道具が使えるようになり、時にはより快適、時にはより残酷な生活が可能になったでしょう。道具が発達していけば、脳や認知能力も進化したかもしれません。たとえばこんな風に「二足歩行」について考えてみれば、少なくとも人類学者が人間の化石だけを見ていればそのすべてがわかる、というわけではないことがわかるでしょうか。

私が主に行っているのは、こんな風にいろいろな分野の知識を整理し、それを足がかりにしながら人間、特に文化の進化について考察するという研究です。いろいろ分野の知識を整理・統合しようとすれば、当たり前ですがいろいろな分野の研究にある程度は通じていなくてはいけません。昨日は人類学の論文を読み、今日は心理学、明日は考古学の論文を読む、なんていうのが日常です。しかもあまりに生半可な理解では各種の専門家に怒られてしまいますので、ことあるごとにその筋の専門家と議論して、いろいろ教えてもらったり、共同で研究を進めたりしています。こういう研究スタイルを面白いと感じるか、あるいは面倒だと感じるか、はたまた「何をやっているのかよく分からない」と感じるのかは人それぞれでしょう。ただ、本当に面白いことは、こういうよく分からないところから生まれてくるのでは、というのが私の妄想です。