南山の先生

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人文学部・人類文化学科

中尾 央

職名 教授
専攻分野 哲学
主要著書・論文 Cultural evolution of ritual practice in prehistoric Japan: The kitamakura hypothesis is examined. Letters on Evolutionary Behavioral Science, 15(1), 1‒8. (共著,2024年)
Population pressure and prehistoric violence in the Yayoi period of Japan. Journal of Archaeological Science, 132: 105420. (共著,2021年)
Violence in the prehistoric period of Japan: the spatiotemporal pattern of skeletal evidence for violence in the Jomon period. Biology Letters, 12: 20160028.(共著,2016年)
The evolution of punishment. Biology & Philosophy, 27 (6), 833-850. (共著,2012年)
将来的研究分野 文化進化史の解明
担当の授業科目 人類文化学基礎論、科学文化論

人間(文化の)進化を考える

もともとの専門は科学史科学哲学という分野でした.科学の歴史や哲学的基盤を考える,という分野です.今でもこちらの研究は地味に継続していますが,昨今は人間進化,特に文化の進化がメインのテーマになりつつあります.

文化と進化という言葉は似ているようで,実は相性が悪い言葉でもあります.たとえば従来の文化人類学の中では,文化の進化について語ることは,色々な理由からあまり良くないことだとみなされてきました.今でも「文化の進化を研究しています」と話すと,一部の人から苦い顔をされることが少なくありません.その理由はわからないでもないですが.

具体的には,さまざまな考古・人類遺物を対象に,その文化的・生物的遺物が時間的・空間的にどのように変化してきたのか,その変化のパターンを色々な角度から分析し,どうしてそのようなパターンが生み出されたのか,その原因を考察する,といった研究を行なっています.戦争などの争いによって傷がついたと推測される人骨の出土頻度と,墓の数から推定した人口動態を比較し,人口増加が争いの原因になりうるかどうかを考察したり,土器や人骨を三次元計測して得られた三次元データを統計的に解析し,どのようにして土器や人類集団が伝播・拡散していったのかを検討したり,という研究をしたりしています.各地の博物館や埋蔵文化財センターへ出向いて三次元計測を行ったりするのは大変ですが,色々な遺物を観察・計測できるのは楽しいですし,そこで得られたデータを解析することで新たな結果が見えてくると嬉しいものがあります.

では,どうして科学史科学哲学なる分野を専門とし,また専門分野に「哲学」を掲げているのに文化進化の研究を行なっているのでしょうか.人生は成り行きだと言ってしまえばそれまでなのですが,実は科学哲学をやっているときから人間の進化に関心を持ち,どのように人間が進化してきたのかを哲学的に考察していました.

実際,哲学者の中でも人間進化の研究を行なっている人は(多くはないですが)他にも多少はいたりします.今は哲学だけでなく,考古学や人類学,あるいは心理学や生物学などの知見・手法も参考・援用しながら考察を行なうようになりました.テーマ自体は特に変わらず,アプローチの仕方が多様になっただけ,といえばそうかもしれません.最初にあがっていた論文は,私のこうした遍歴を辿るものになっているのかもしれません.